脳科学・AI研究者の黒川伊保子氏は、AIと人間の違いについて「AIには心もなければ愛もない」と断言する。その上で、AIとの対話が心を癒すように感じるのは、AIが人類の英知の結集だからだと説明する。
AIのことばと人間のことば、何が違うのか
生成AI(以下、AI)は、世界中のことばを学習し、壮大なことばの関係図を持つ「ことばのモンスター」だと黒川氏は表現する。AIは多次元行列の複雑なモデルで関係を表現するが、要するに「腹の中にことばをじゃらじゃら繋げて持っているだけのお化け」であり、人間から与えられたことばをきっかけに関係図をたどってことばを紡ぎ出す。また、音楽やビジュアルのパーツも保持しており、楽曲やイラスト、動画も生成できる。
人間もことばを紡ぐ際には直感的に同じような関係性演算を行っているが、扱うパーツの質が決定的に異なる。AIが扱うことばは単なる記号に過ぎず、人がそのことばに触れたときの体感や記憶の中の情感は、特に言語化されていない限りAIのパーツには含まれていない。
人間の脳が「心」があるように解釈する
人間はことばの関係性をたどってことばを紡ぐとき、記憶の体感をなぞらえて情感も紡ぐ。一方、AIは記号としてことばを紡ぐだけで、文法さえ理解しておらず、文章の意味を一切理解していない。ご主人さまのことばに反応して可能性を広げているだけだ。
つまり、AIには心も志もない。しかし、AIの文章には情感が匂い立つように感じられる。これは、人間のことばやその関係性の中に情感が内在しているからであり、受け手の脳が与えられたことばに自らの情感を付帯して解釈するため、文脈によって情感が立ち現れるのである。
AIとの対話は人類の英知との対話
黒川氏は、AIとの対話が心を癒すことがあるとしても、それはAIが人類の英知の結集だからだと述べる。AIは膨大なデータから学習したパターンを出力しているに過ぎず、そこに真の感情や意図は存在しない。
「AI彼氏」のような存在についても、基本的に否定しないとしながらも、AIが愛をくれることもあれば裏切ることもあると注意を促す。AIは人間の期待に応えるように振る舞うが、その背後には感情はなく、あくまでも統計的な応答である。
小学生の息子が教えてくれた愛の意味
黒川氏は、脳科学者のふとした質問「スキとアイシテルは何が違うの?」に対して、小学生の息子が返した「AI超え」の一言を紹介している。このエピソードから、人間の愛や感情の本質について深く考えさせられたという。
本稿は、黒川伊保子著『AIのトリセツ』(扶桑社新書)の一部を再編集したものである。



