中学女子ソフトボールで全国優勝を果たした東海大菅生高校中等部が、軟式野球のリーグに参加して2年目を迎えた。ソフトボールと野球を掛け持ちする現場では、ルールの違いに戸惑いながらも、互いの競技特性が良い影響を与え合っている。
ルールの違いと戸惑い
ソフトボールの選手が野球で最初に戸惑うのは、出塁後のリードだ。ソフトボールでは「投手の手から球が離れるまで走者は離塁禁止」というルールがあるため、野球のリードに慣れず、けん制球に刺されることもある。また、野球のボールはソフトボールより直径で約2.5センチ小さく、重さは約50グラム軽い。投手の投法も異なるため、野球の試合ではソフトボール部の投手ではなく野手が投手を務める。塁間距離もソフトの約18メートルに対し、中学女子軟式野球は25メートルと長く、選手にとって難しい要素の一つだ。
ソフトボールの技術が野球に生かされる場面
一方で、ソフトボールで培った技術が野球でも有効に機能する。塁間が短く、打者走者を一塁で刺すための素早い内野守備は、野球でも重要な要素だ。また、エンドランなど戦術的に点を取る側面が強いソフトボールのスピード感は、野球の試合にも好影響を与えている。
全中2連覇の偉業
2025年8月、東海大菅生高中等部ソフトボール部は、野球の試合を掛け持ちしながら東京都と関東の大会を勝ち抜き、大分県竹田市で行われた全国中学校体育大会(全中大会)に出場。前年覇者として臨んだ決勝戦では、大阪府代表との延長タイブレイクの接戦を1-0のサヨナラ勝ちで制し、4試合無失点で大会2連覇を達成した。
競技環境の変化と課題
しかし、競技を取り巻く環境は安泰ではない。全中大会を主催する日本中学校体育連盟(中体連)は、2027年度以降の大会改革案として、部活動の少ない水泳、体操、ソフトボール男子など9競技を実施しないことを決定した。ソフトボール女子は今回の縮減対象から外れたが、先行きは不透明だ。
東海大菅生高中等部のソフトボール部は、かつて部員が9人そろわない時代もあった。村田隆一監督は現場を回って選手を集める苦労を経験し、現在は毎年、多摩地域で小学生の女子野球大会の開催にも関わっている。村田監督は「(地域の)ほぼ全市町村に女子チームがあって約200人の選手がいますが、中学で野球を続ける子は6年生70~80人のうち10人前後。ソフトボールをやる子は5~6人です。ほとんどが他の競技に流れてしまう。将来的にこの子たちを逃さずに、ベースボール型にとどめておきたい」と語る。
野球参加の効用
村田監督は、野球に参加することでの効用も見いだしている。「参加している野球リーグには、スポーツを楽しむという女子野球の原点を感じます。塁間の狭いソフトボールは悪く言えば窮屈で、女子には野球のちょっと間のあるような競技性が合う。緩いところで楽しみ、リフレッシュできています」。新たな挑戦を続けながら、今夏もソフトボール部の全中大会を目指した戦いが続いている。
専門家の見解
ソフトボールと軟式野球の掛け持ちについて、スポーツ教育学が専門の神谷拓・関西大学教授は「シーズン制とセットで複数の競技を実施しているアメリカとは違う考え方だが、全中が変革期にある中で、一つの試みとしては注目される。これからの全国大会の在り方としても、シーズン制や別の競技への参加にまで視野を広げていけるかが問われている」と述べる。
全中改革後の受け皿整備
全中改革を受け、取りやめとなる競技の「受け皿」をどう整備するか。日本ソフトボール協会は中体連と連携しながら、全中に代わる男子大会の開催について検討を始めている。協会の担当者は「女子の将来も含めて全中大会そのものの在り方が問われてくる中で、中学生の新たな目標となる大会の創設や、競技人口の土台を維持する道筋を作りたい」と話している。
熊本国府高の事例:ソフトから硬式野球へ完全移行
ソフトボールと野球の掛け持ちから完全移行した例として、熊本国府高(熊本市)がある。同校は2年前に女子ソフトボール部を女子硬式野球部へ移行させた。河野博行監督は「22年に硬式野球部ができ、2年ほどソフトとの掛け持ちで活動しました。県内でも中学生のソフトボール人口が減り、女子野球が増えてきた時期でした」と振り返る。最初は硬球に慣れることから始め、「怖いと思ったらよけろ」と部員に呼びかけた。ソフトの大会と野球の大会の日程に合わせてボールを持ち替えて練習を重ねた。
ソフトから野球に生かせる利点について、河野監督は「危機管理能力ですね。ソフトはプレーでちょっとスキを見せたら次の塁をとられる。カバーリングの意識は高かったので、そこはすごく生かせました」と語る。移行期間中も県内のソフトの大会で3度優勝し、「やっぱりやめないで」という周囲の声もあった。創部70年以上の歴史を持ち、全国高校総体で準優勝3度の伝統あるソフトボール部にとって、完全移行は大きな決断だった。現在の部員は35人で、中学時代の軟式野球やソフト経験者のほか、硬式野球をやっていた部員も複数在籍する。創部初年度から参加する夏の全国高校女子選手権大会ではベスト16が最高成績で、今月18日から始まる今年の大会では決勝戦の舞台である甲子園球場を目指して練習に励んでいる。



