信玄堤の治水システム再評価、豪雨激甚化で先人の知恵に注目
信玄堤の治水システム再評価、豪雨激甚化で注目

山梨県を流れる釜無川と御勅使川の合流地点に、戦国武将・武田信玄(1521~73年)の統治時代に完成したとされる「信玄堤」を中心とした治水システムがある。3000メートル級の急峻な山々に囲まれた同県は豊かな水源を持つ一方、水害対策が古くからの重要課題だった。地球温暖化で水害が激甚化する中、研究者は「注目すべき先人の知恵」と再評価している。

信玄堤の仕組みと特徴

山梨県都市計画課景観まちづくり室などによると、大規模な治水システムは1542年から約20年かけて築かれたとされる。将棋駒の先端のような形に石を積み上げた「将棋頭」で水流を二つに分け、川の合流地点を「高岩」と呼ばれる崖で受け止めながら勢いを弱め、「信玄堤(本堤)」や下流の「霞堤」に流す仕組みだ。

中でも特徴的な霞堤は「わざと水をあふれさせる」設計になっている。増水時には堤防の随所に設けられた切れ目から水が逆方向にあふれ出し、あふれた水は水田などに一時的にたまり、川の水位が下がった段階で自然に排水される。これにより、締め切った堤防で水流を抱え込むよりも大規模水害のリスクが低くなるという。

Pickt横長バナー — Telegram用の共同買い物リストアプリ

現代の流域治水への応用

今年7月には、南アルプス市の生涯学習センターで信玄堤の歴史やメカニズムを学ぶシンポジウムが開催され、約130人の地域住民らが参加した。山梨大地域防災・マネジメント研究センターの大槻順朗准教授は「かなり視野の広い整備方法で、水があふれた場合でも川を一定程度制御できるようになっている」と評価。信玄堤などがない状態で最大規模の洪水が起こると、甲府盆地の広い範囲が水浸しになり、所によっては深さ2メートル規模の浸水が生じるとのシミュレーションも公表した。

国土交通省は、既存のダムや堤防などの能力を上回る洪水が発生することを前提に「流域治水」を推進し始めており、2019年の台風19号をきっかけに、那珂川や久慈川で霞堤の整備を進めている。大槻准教授は「最近の気候変動を受け、先人の治水システムの考え方が見直されてきた」と指摘する。

歴史と維持管理の知恵

山梨文化財研究所の畑大介・上席研究員は、複数の古文書や絵図を基に、武田信玄が浸水リスクがある堤防周辺に住んだ住民の租税を免除する政策をとっていたことを紹介し、「堤防の裏側に村を置いて、その村のためにも堤防を維持管理するしかない状況を作り出した」と解説した。鈴木猛康・山梨大名誉教授(地域防災)によると、武田信玄の時代には地域住民が自ら治水システムの維持管理を行う習慣が根付いており、名主の指示により住民総出で行う仕組みができた。鈴木名誉教授は「まるで住民全員が防災担当者になるような仕組みだ。武田信玄はハードとソフトの両方で地域防災の形をつくった」と話す。

Pickt記事後バナー — 家族イラスト付きの共同買い物リストアプリ