阪神大震災の発生から30年が経過した。被災地では、震災の記憶を風化させないための取り組みが続けられているが、体験者の高齢化により「語り部」の減少が深刻な課題となっている。神戸市は、この状況を打開するため、デジタル技術を活用した新たな語り継ぎの手法を導入し、学校での防災教育を強化している。
語り部の高齢化と新たな担い手の育成
震災を経験した世代は年々減少し、直接体験を語れる人は限られてきている。神戸市の調査によると、震災時に成人だった人の多くが現在60歳以上となり、語り部として活動する人の平均年齢は70歳を超えているという。このままでは、震災の教訓が次世代に伝わらなくなるという危機感が広がっている。
こうした中、神戸市は2023年度から「震災語り部次世代育成プログラム」を開始。若い世代が語り部となるための研修を実施し、震災の知識だけでなく、効果的な伝え方や傾聴スキルを学ぶ機会を提供している。プログラムには毎年約30人が参加し、修了後は学校や地域の防災イベントで活動している。
デジタルアーカイブで記憶を永久保存
神戸市は、震災の記憶をデジタル化して保存する「デジタルアーカイブ」プロジェクトも推進している。これは、被災者の証言や当時の写真、映像を高精細にデジタル化し、インターネット上で誰でも閲覧できるようにするもの。すでに約5000件の資料が公開されており、今後も追加を予定している。
特に注目されるのは、AI技術を活用した「バーチャル語り部」の開発だ。これは、実際の語り部の証言をAIが学習し、ユーザーの質問にリアルタイムで応答するシステム。2025年の完成を目指しており、実際の語り部が減少しても、擬似的に震災体験を聞くことができるようになる。
学校での防災教育の強化
神戸市教育委員会は、市内の小中学校で震災に関する授業を必修化した。具体的には、毎年1月に「震災学習週間」を設け、全学年で震災の歴史や防災の重要性を学ぶ。また、実際の被災者や語り部を招いた講演会を実施し、生の声を聞く機会を提供している。
さらに、2024年度からは、震災体験をVRで再現した教材を導入。生徒が仮想的に震災直後の街を歩き、避難所の様子を体験できる。これにより、臨場感を持って震災を学ぶことができ、記憶の継承に役立っている。
地域コミュニティの役割
語り継ぎの取り組みは、行政だけでなく地域コミュニティでも行われている。神戸市長田区では、住民有志が「震災伝承サークル」を結成し、定期的に集会を開いて震災の教訓を話し合っている。サークル代表の田中さん(仮名)は、「震災の記憶を風化させてはいけない。若い人にも参加してもらい、自分たちの経験を伝えていきたい」と語る。
また、NPO法人「ひょうご震災遺構ネットワーク」は、震災遺構の保存活動とともに、語り部の派遣事業を行っている。同団体の代表は「震災遺構は物理的な記憶の継承装置。語り部の話と組み合わせることで、より深い理解が得られる」と話す。
今後の課題と展望
神戸市の取り組みは一定の成果をあげているが、課題も残る。デジタルアーカイブの維持費や、AI語り部の開発コストは年間数千万円に上り、財源の確保が問題だ。また、学校での防災教育は教員の負担増にもつながっており、効率的なカリキュラムの開発が求められている。
それでも、震災の記憶を次世代に伝える努力は続けられる。神戸市防災企画課の担当者は「30年という節目を迎え、改めて震災の教訓を世界に発信していく。デジタル技術を活用しながら、語り継ぎの輪を広げたい」と意気込む。



