「あの子には、まだ早い」。その一言が、部下の未来をそっと閉じている。経験の7割は、現場でしか手に入らない。ならばできることは、部下がその7割にアクセスできるよう、環境を設計し続けることだ。
SBIモデルで、事実ベースのフィードバックを返す
任せた後の関わり方も、感覚に頼っていては続かない。ここで紹介されているのは、フィードバック手法のSBIモデルだ。
- S(Situation・状況):「昨日の顧客対応の場面なんだけど」
- B(Behavior・行動):「顧客からのメールに、24時間以上返信していないケースが3件あったね」
- I(Impact・影響):「返信が遅れたことで、顧客から『対応が遅い』というクレームが入ったんだ」
ポイントは、“意見”ではなく“事実”を鏡のように映し出すこと。「最近たるんでるんじゃないか」と主観をぶつける代わりに、SBIで事実を返す。それだけで、部下は自分の行動を客観視でき、次の一歩を自分で選び直せるようになる。
任せたきり口を出さないのが「放置」。任せた上で、事実ベースで対話し続けるのが「設計」だ。両者は似て非なるものだ。
「失敗ごと」を学習に変換する場を設計する
経験7割の法則が意味するのは、成長に失敗は不可避だということ。任せた仕事で部下がつまずいたとき、それを「やっぱり任せるんじゃなかった」という材料にするか、「次に活きる学習」に変換するか。ここでも上司の設計力が問われる。
具体的には、事後の振り返りの場を意図的に作ること。「何がうまくいったか」「何が課題か」「次はどう変えるか」――この3問を立て、部下自身の言葉で語らせる。上司は答えを出さず、問いを返す。失敗を個人の責任として追及するのではなく、組織の学習資源として回収する。その姿勢こそが、次なる挑戦を生む心理的安全性の土壌になる。
「まだ早い」が返ってこない職場へ
『抱え込む上司はいらない: 部下に任せられない人の権限委譲の教科書』(笠間書院)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプする。
部下を信じて放つ――ではなく、信じられる環境を設計する。AIが答えを出す時代だからこそ、人間にしか生み出せない“経験の質”を意識的にデザインするマネジメントが、これからの時代のリーダーに求められている。その一歩を、明日から踏み出してみませんか。



