中学受験サポートは10月27日、教職員向け「感染症対策セミナー」を東京・大手町の読売新聞東京本社で開催した。インフルエンザなどの感染症は学校現場の大きな悩みの一つで、集団感染を防ぐための留意点について、東京女子医大医学部の武藤剛准教授(公衆衛生学)による基調講演の後、広尾学園中学校・高等学校の金子暁副校長とエアドッグジャパン・吉川純代取締役が加わってパネルディスカッションを行った。「中学受験サポート」会員校の教職員ら約50人が参加し、会場やライブ配信で熱心に聴き入った。
「行動を変える」より「環境を変える」
基調講演の冒頭、武藤准教授は、新型コロナウイルス感染症の影響が大きかった2022年に高校野球の監督が夏の甲子園の優勝インタビューで語った「青春は密」という言葉を引用し、「感染症では『密』が課題になるが、学校は青春そのものであり、どうしても密になる。その中で『安全・安心』と『青春』を両立させるにはどうしたらいいか」と切り出した。
公衆衛生学の専門家として、健康には「行動を変えることで得られる健康」と「環境を変えることで得られる健康」があることを紹介。感染症対策としての行動は「手洗いをする」「マスクをする」「ワクチンを打つ」などだが、日頃病院で患者に健康指導をしている立場から「人の行動を変えることはなかなか難しい」と打ち明けた。その上で「環境を変えてしまえば、そこにいる人がどんな考え方をして、どんな行動をしたとしても、自然に健康を得られることにつながる」と語り、環境を変える一つの手段として「換気」の重要性を指摘した。
換気不足の実態と対策
新型コロナウイルスの集団感染が発生したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」や、能登半島地震の避難所などを例に挙げ、感染症が蔓延しやすくなる条件は「様々な人が集まる場や、すごく暑い時、すごく寒い時、つまり換気がしづらい環境だ」と説明。コロナ禍の2021年ごろ、千葉県の中学校から依頼を受けて音楽室の空気の流れを調査したが、音漏れしないよう締め切っているため換気が不十分で、対策として換気扇の増設をアドバイスしたという。
パネルディスカッションでは、広尾学園の金子副校長がコロナ禍に「学校を止めない」「学びを止めない」ことを意識して取り組んできた経験を語った。「世の中がこういう状況だからといって行事などをやめてしまったら、生徒の学校生活が空白になってしまう。様々な情報に流されることなく、制約を成長の機会ととらえ、文化祭や修学旅行をどうすれば出来るか知恵を絞った」と振り返った。
エアドッグジャパンの吉川取締役は、学校現場で「換気」が不足している現状について、データを示しながら紹介。職員室でコロナの集団感染が発生したある中学校で空気環境を調査した結果、厚生労働省が推奨する1人当たり1時間の換気量(30立方メートル)の達成率は、保健室21%、職員室19%、教室9%にとどまり、圧倒的に不足していたという。「近隣住民からの苦情があるなど、思うように窓を開けられない場合もある。補完として空気清浄機の導入も一案」と提案した。
基礎体力と信頼関係の重要性
武藤准教授は「感染症対策としては、手洗いや換気などもそうだが、ベースとなるのは普段からの地道な健康管理。食事と睡眠をしっかり取って、生活リズムを整え、基礎体力をつけておくことが大事」と語った。
質疑応答では、会場の教員らから熱心な質問が相次いだ。運動部の顧問をしている教員は「これからの季節、生徒がインフルエンザで大会に出られないと一番後悔する」と話し、指導者として出来る具体的な感染症対策を尋ねた。これに対し、武藤准教授は「体育会系の生徒は、ちょっと具合が悪くても無理してしまい、周りに感染を広げてしまうことがある。生徒と普段からコミュニケーションを取り、具合が悪い時にすぐに言える信頼関係を築くことが大切。これは産業医として企業に関わる中でも感じていることです」とアドバイスした。