自由学園の「食事作り」、全員分調理で学ぶ教科横断授業の実践
自由学園の「食事作り」、全員分調理で学ぶ教科横断授業

自由学園中等部・高等部(東京都東久留米市)では、本格的な実践から本質を学ぶ「実学」に力を入れており、その事例の一つが「食事作り」です。食事当番になった生徒が全員分の昼食を調理する伝統があり、家庭科の枠を超えたユニークな教科横断授業として位置づけられています。中等部の取り組みを取材しました。

全員分の調理から得られる学び

同校は学校を一つの「大きな家族」と捉え、生徒と教員が一堂に会して昼食を共にします。その全員分を、食事当番になった生徒が作ります。中等部の当番は、月曜が中3、火曜が中2で、中1は後期の10月から木曜を担当。20人前後の当番が専門教員の指導の下、衛生と安全を保てるよう意識しながら、事前に学んだ調理手順に沿って調理を行います。中1と中2は決められた献立を調理しますが、中3は生徒が献立を考えることもあります。

教員を含む中等部全員分となると270食以上。食材の仕入れから調理、配膳までをスムーズに進めるのは簡単ではありません。計画から実践の過程で、食材費や栄養価の計算、エネルギーの流れと物質循環、トラブルへの対処法など、さまざまなことを実感を伴って学ぶ機会になります。みんなをまとめるリーダーシップも必要です。

教科横断授業の教育的効果

家庭科のみならず数学や理科の学び、マネジメントスキルも身につく教科横断授業。その教育的効果を、「食担当」の肩書がある学校職員・関根まどかさんは次のように説明します。

「単に調理技術を身につけるだけでなく、その前後の過程にも学びがあります。例えば、野菜を作る時はどんな肥料が使われているのか、廃棄された食材はどうなるのかということを環境問題と関連づけて考えたり、時間内に手際よく調理するための役割分担を考えたりすることも、生徒たちにとってよい学びの機会になっています。大人数の食事を作るのは大変ですが、周りの人と協働する中で、相手が何を必要としているのかを想像して、その時々で自分が何をすべきかを考えられるようになってほしいです」

予期せぬトラブルにも臨機応変に対処

9月28日の3・4時間目、中等部の調理室には、昼食作りに取り組む中3生の姿がありました。この日は、専門教員3人の指導の下、当番の生徒17人が272食を作ることになっています。第1リーダーの伊藤新之典君と第2リーダーの平田玲明夢君は、3週間ほど前から教員と献立や食材、調理手順などについて相談し、17人の役割分担も2人で考えました。通常は食事作りの1週間前にリーダーと教員の間で打ち合わせを行いますが、今回は献立を考えるところから生徒が関わっていたため、スケジュールを早めて準備したそうです。

生徒が提案した献立は、ガーリックライス、鶏の照り焼き、ブロッコリー塩ゆで、春雨サラダ、バナナ、ほうじ茶、牛乳。費用と栄養価も概算済みで、栄養バランスの取れたメニューです。

午前10時50分、調理用白衣、帽子、マスク、手袋、長靴を身につけた生徒たちが集合。第1リーダーの伊藤君が献立ごとの担当を読み上げ、「鶏の照り焼きは11時30分までに焼き始めないと間に合わないので、時間を意識して行動しよう」と呼びかけます。教員が「自分たちで考えた献立をみんなで実現するというのが今日の目標です。これまでの経験を生かして、みんなで協力して仕上げましょう」と声をかけ、中3生の食事作りが始まりました。

生徒たちはそれぞれの持ち場で大量のネギを刻んだり、米を洗ったり、ブロッコリーをゆでたりして仕事に集中。生肉は別室で扱うなど、衛生面・安全面にも配慮されています。「ブロッコリーは何分ゆでるんだっけ?」「いちょう切りってどんな形?」「1枚の天板に鶏肉は何枚載せるの?」といった声があがると、伊藤君と平田君は調理法が書かれた紙を確認して答えていました。

途中、春雨サラダのボウルを落としたり、調理器具の操作を誤って2釜分のご飯が炊けていなかったりと、料理の分量が不足するハプニングが発生。しかし生徒たちは教員に相談しながら解決策を考え、炊飯器が不調のためガスレンジでご飯を炊き、春雨サラダは1人分の分量を減らして配膳。最終的には不足分のご飯も時間内に炊き上がり、昼食時間に遅れることなく全員分の食事を提供できました。

「作る側の視点で見られるようになった」

できあがった料理は「記念ホール」に運ばれ、中1から中3の生徒と教員が机を囲んで昼食を共にしました。皆が食事を楽しむ間、伊藤君と平田君は壇上に上がり、この日の献立から摂取できる栄養を説明しました。

昼食後、伊藤君と平田君に話を聞きました。平田君は初等部から、伊藤君は中等部から自由学園で学んでいます。食事作りのリーダー役は生徒たちが交代で務めており、今回は2人が第1リーダーと第2リーダーになりました。

伊藤君は「トラブルへの対応が大変だった」と本音をもらします。「ご飯の炊き上がりが遅れたり、サラダが足りなくなってしまったり、イレギュラーなことが次々と起こりましたが、冷静に対応できました。最後は時間に遅れることなく人数分の用意ができてよかったです。個人の反省点として、調理の手順をあいまいに覚えていたので、次回は調理工程をしっかり頭の中に入れてから本番に臨みたいと思います」

平田君は、調味料の配合をまちがえたことを反省点として挙げます。「味見をしたら酸っぱくて、パッケージを確認したら、みりんと酢をまちがえて入れていました。みんなに食べてもらう食事なので、一つ一つの工程に細心の注意を払わなければいけないなと、改めて思いました。僕自身もミスをしてしまいましたが、ハプニングが起きてもその場の空気が悪くならず、みんなでカバーし合えた点はよかったと思います」

また平田君は、食事作りをするようになり食事への視点が変わったと話します。「ふだん何げなく食べていた食事も、栄養のバランスがいいなとか、味付けが工夫されているなとか、作る側の視点で見られるようになりました。料理ができあがるまでに、いろいろな人が関わっていることがわかりました」

2人の話を聞いた関根さんは、「作り手の気持ちがしっかり伝わっていてうれしいです。これからも『食事を大事にする』という価値観を育てていきたい。生徒たちには、食事作りを通して、人のために自分ができることを精一杯やるということを実践してほしいです」と語りました。