8月も終わり、本格的な2学期を迎える中、学校現場で犬との触れ合いを通じて児童・生徒の自主性や思いやりの心を育む「スクールドッグ」の活動が広がっている。言葉を超えて寄り添う存在が、子供たちに心の安定をもたらし、校内の新たな居場所となっている。
昼休みに生徒が囲む「ドルチェ」
千葉県浦安市の市立入船中学校の昼休み。「よし、行こうか」という落合幸一郎校長の声かけで、ラブラドルレトリバーのドルチェ(1歳・オス)が廊下に軽快な足音を響かせた。ドルチェは常駐のスクールドッグで、生徒たちは姿を見るや、たちまちしゃがみ込み、周りを囲んだ。
「ここ柔らかいね」「存在そのものがかわいい」「癒やされる」。そう声をかけられ、なでられて、ドルチェも気持ちよさそうだ。輪の中にいた2年の神原ももかさんは、「ドルチェのおかげで毎日学校に行くのが楽しみになった」と笑顔を見せた。
同校は令和8年4月にスクールドッグを導入した。落合校長は、「生徒の笑顔を見る機会が相対的に増えている。この活動がさらに広がってほしい」と手応えを語る。
元中学教師が立ち上げた協会
取り組みを牽引するのは、日本スクールドッグ協会(岡山県西粟倉村)だ。代表理事の青木潤一さん(42)は元中学教師で、担任した不登校の生徒が高校進学後に中退してしまった経験から、「相性の良い先生に出会えなければ生徒が居場所を見つけられないような教育現場は(本来の在り方とは)違う」と気づいた。何かできないかと模索する中、スクールドッグの活動を知り、4年に協会を立ち上げた。
発足から4年。現在は静岡、島根、京都など11府県に導入され、中学1校、高校1校、中高一貫校3校に常駐、11校に定期的に犬を派遣している。導入校からは「学校の空気が柔らかくなった」「生徒の言葉遣いが優しくなった」などの声が寄せられているという。
「令和の生き物係」と持続的な運用の課題
スクールドッグの導入には、犬への事前の訓練のほか、生徒や保護者の理解を得たり、アレルギーや安全面の対策などの事前の校内調整が必要だ。活動中は、ドッグケアを学んだ同協会認定のスクールドッグハンドラー(動物介在教育支援士)が犬を見守る。常駐校の場合、教員がハンドラーとなり、飼い犬を訓練し、一緒に出退勤して活動するケースがほとんどだ。
入船中の場合、導入を目指して落合校長がハンドラー資格を取得し、協会からドルチェを引き受けて自宅で飼うことで活動している。ドルチェは授業中、校長室で待機し、休み時間に生徒と遊び、登下校時に生徒の見守りも行う。
協会は、生徒が犬の世話を通じて自主性を育み、生き物と共生する大切さを学ぶ機会となることも狙う。かつてはどの学校にもあったものの、今では下火となった生き物係の「令和版」とイメージしている。
こうした「居場所作り」に学校が取り組み始めた背景には、不登校の急増がある。文部科学省の6年度調査によると、不登校の小中学生は過去最多の35万3970人となった。国は無理な教室復帰を強要しない新たな居場所づくりを進める方向を打ち出しており、スクールドッグもその選択肢の一つとなりそうだ。
青木さんは「言葉を持たない犬だからこそ、深く寄り添える。学校でありのままを受け入れてくれる存在が子供には必要だ」と期待する。一方、持続的な運用には、予算の確保や、専門知識を持つハンドラー不足などの課題もある。打開策として青木さんが目指すのが、保護犬をスクールドッグとして活用する台湾の「生命教育」の日本版だ。「個人や協会の力だけでは限界がある。今後は教育委員会なども巻き込み、日本の教育政策として推進させていきたい」と、公的な仕組みづくりを見据えている。



