日本で暮らす外国人が増える中、日本語能力が不十分なまま高校に入学する生徒が増加している。十分な日本語指導を受けられずに中退したり、進学や就職で不利になったりする外国ルーツの生徒が目立つ。文部科学省は高校の指導体制充実を各教育委員会に促すが、人材や予算は追いついていない。
日本語指導の現場:都立田柄高校の取り組み
6月中旬、東京都練馬区の都立田柄高校の教室で日本語指導の授業が行われた。大島海斗教諭(25)は、プリントに書かれた問題文「先生は職員室に……」の空欄を指し、「人は『います』。物なら『あります』です」と解説。出席したネパールやフィリピン出身などの1年生16人は、入学後の日本語能力試験で簡単なあいさつができる程度と判定された生徒たちだ。
田柄高校は、日本語か英語の作文と面接だけで受験できる特別入試「在京外国人生徒等選抜」がある都立12校の一つ。手厚い日本語指導が人気で、今春の特別入試(定員25人)の受験倍率は1.68倍だった。一方、一般入試(定員152人)は0.49倍と定員割れしており、特別入試で不合格となった生徒も一般入試で入学する。今年4月の新入生125人のうち、日本語能力が不十分な生徒は80人を占めた。
中国出身で2025年3月に卒業した女性(23)は入学当初、単語を並べて会話する程度の日本語能力だったという。放課後に何度も補習を受け、拓殖大学(東京)に進学。現在は商学部2年で国際ビジネスを学ぶ。「大学で授業を受けられるのは、会話や文法を学べた補習のおかげ」と感謝する。
田柄高校で日本語指導を受け、今春卒業した38人のうち32人は大学・短大、専門学校に進学した。沖山栄一校長は「日本で頑張りたいと話す生徒は多い。進学や観光業界などへの就職に力を入れたい」と述べる。
全国的な現状と地域格差
在留外国人は増加傾向にあり、25年末に初めて400万人を超えた。小中高校で日本語指導が必要な児童生徒数は約8万8000人(25年5月)に上る。高校生の多くは公立高で学び、在籍者数は7313人(同)と、16年度調査の3372人から倍以上に増えた。
一方、高校の日本語指導は自治体間の差が大きい。公立高に特別入試などの受け入れ体制を設けるのは、25年春入学の入試で東京、大阪、愛知、佐賀など20都道府県に限られる。
日本語指導が十分に受けられず、中退したり進学・就職で苦戦したりする生徒は多い。公立高生の75.0%(25年卒)は大学や専門学校へ進学するが、日本語指導が必要な生徒の進学率は41.2%にとどまる。就職先の雇用形態も、アルバイトなどの非正規が49.6%と半数に近い。
文科省の対策と限界
文科省は23年度から、高校で日本語指導が必要な生徒に対し、小中学校と同様に在籍クラスの授業に代えて別の教室で個別指導を受けられるよう制度改正した。各教育委員会には、担当教員の配置や児童生徒の母語を話せる支援員の確保などに補助金を支給し、今年度予算は約14億円と前年度から約2億4000万円増額した。それでも各教委が要望する額の6割しかカバーできず、ポルトガル語などの母語支援員のなり手も地域差があり、配置が追いつかないのが実情だ。
文科省の「外国人児童生徒等の教育の充実に関する有識者会議」は6月30日、高校について「日本語による学習や進路情報へのアクセスに困難を抱える生徒が多いことを踏まえ、日本語指導とそれを支える指導体制の充実が求められる」とする報告書をまとめた。
専門家の指摘
東京学芸大の斎藤ひろみ教授(日本語教育)は「高校では、生徒の日本語力や学習経験に開きがある。それぞれの将来像も異なるため、個別に指導計画を作って対応する必要がある。生徒たちが日本社会で自立していくためには、高校で適切な教育を受けることが重要で、指導できる人材の育成と配置がさらに求められる」と指摘している。
なお、「在京外国人生徒等選抜」は、東京都が日本語が苦手な生徒を対象に1989年度に導入した都立高校の特別入試。外国籍限定だったが2025年度から国籍を問わなくなった。定員は12校計245人で、今春の平均受験倍率は1.98倍。



