Kさんが、自分は「頭がいい」だと知ったのは幼稚園の頃だった。あるテストでIQ127を記録し、「頭いいね」と褒められ、両親も大喜びした。
それから数年。小学6年生になったKさんは中学受験に挑むが、成績は志望校のラインに届いていなかった。
「あんたはもうダメね」
受験の結果は惨敗だった。第1志望も第2志望も不合格となり、最終的に入学したのは第4志望に書いた中堅の中高一貫校。そして、Kさんをいじめていた児童は、第1志望に合格していた。
さらに、両親の反応がKさんの心に深い傷を残す。結果が出た後、母親は「あんたはもうダメね」と一言。以降、母の関心は同じ私立小学校に通う弟へと向かう。兄が「ダメ」になった今、家庭の教育資源は残された弟に集中される。Kさんは、その時に見た母親の表情を、今でも鮮明に覚えている。
「自分は頭が悪い」「自分はダメだ」という思いが、Kさんの内面を大きく曇らせた。もともとは明るい性格だったが、暗い性格へと変わってしまった。私立小学校で6年間にわたって刷り込まれた自己否定の感覚は、中学に上がっても簡単に消えることはなかった。
第4志望の中学校が大切にしていた「道徳の時間」
そんなKさんが進んだ第4志望の中学校は、生徒の自己肯定感を高めることを教育方針の一つに掲げていた。互いの良いところを褒め合い、自分を卑下するのをやめる。そうした習慣をクラス全体で積み重ねる方針があり、道徳の授業に力を入れていた。
Kさんにとって、その時間は新鮮に映った。彼自身はこう振り返る。
「小学校の道徳の時間って、みんなほとんど寝てるか、違う科目の勉強を内職していたもんで。あと、僕の時だけかもしれないですけど、その小学校でも道徳って軽視されてた感じで。そういう時間にちゃんと向き合うっていうのが、逆に新鮮だったんです」
私立小学校では、道徳の時間は勉強の合間の「隙間」にすぎなかった。成績に直結しない授業は、宿題を片付ける時間とみなされていた。「自分はどんな人間か」「他人の良いところは何か」についてクラス全体でじっくり考える機会は、あの学校には一度もなかった。
「俺なんて腐ってる」とこぼした日に
そんな道徳の時間に、Kさんは時折、教師に本音をもらしていた。「でも、俺なんてダメなんですよ。俺なんて腐ってるから」
すると先生はこう返した。「いやいや、人間の精神が腐り切るなんていうことは、絶対にないんだよ」
この言葉はドラマ『3年B組金八先生』第2シリーズで、金八先生が「腐ったみかん」の例えで語ったセリフだったという。Kさん自身はそのドラマを見たことがないが、なんとなく心に刺さったと話す。



