現在21歳の息子が、9歳で単身イギリスに渡り、「世界一自由な学校」として知られるサマーヒル・スクールに入学した。父親である秀樹さん(仮名)は当時60歳。年の差60歳の父子が選んだ異例の教育選択の背景には、型にはまらない学びへの強い思いがあった。
「世界一自由な学校」サマーヒル・スクールとは
サマーヒル・スクールは、イギリス・サフォーク州に位置するオルタナティブスクールである。最大の特徴は、授業への出席が任意であり、生徒自身が学びたい教科を選択できる点だ。学期の初めに、生徒はスタッフ(同校では教師を「スタッフ」と呼ぶ)に希望する教科を伝える。スタッフはその要望に応じて個別の時間割を作成する。大学の履修登録に似ているが、生徒の希望が先に立ち、それに合わせてカリキュラムが組まれる点がユニークだ。
では、勉強したくない生徒が要望を出さなかったり、希望が極端に偏ったりすることはないのだろうか。秀樹さんは語る。「もちろんそういう選択もできますが、実際にはそういう人はあまりいない気がします。でも、サマーヒルに子どもを入学させる保護者は、もしそうなっても構わないと覚悟したうえで入れている人がほとんどだと思うので……それがどうしても不安なら、逆に公立の学校のほうが向いているのかもしれません」。
授業の質とイギリス生活のリアル
秀樹さんは、サマーヒルでの授業の質について「今振り返ってみても十分な水準を満たしていた」と評価する。「高校の普通科レベルまでは、問題なく教えられるレベルのスタッフが揃っていたと思います」と述べ、自由な校風の中でも学力面での不安はなかったと強調する。
一方、生活面では特に食事に苦労したという。サマーヒルでは冬と春に約1カ月ずつの長期休みがあり、その間寄宿舎は閉鎖されるため、寄宿生は帰省する。年2回の帰国時、秀樹さんは「やはり食事です。日本では何を食べても美味しいので。当時はハンバーグとか、子どもらしい食べ物を楽しみにしていた記憶があります」と懐かしむ。
寄宿舎の食事については「まあ……かなり微妙でした」と苦笑い。定番のフィッシュ&チップス、パスタ、ピザ、焼きそばのようなアジア系料理も提供されたが、「正直、最初は完食するのはちょっと……という感じで、日本からインスタントのものを持ち込んでしのいでいました(苦笑)。でも、それも徐々に慣れていきました」と振り返る。
ルールは生徒自身が決める
サマーヒルでは、学校のルールも生徒とスタッフの話し合いで決められる。民主的な運営が根付いており、生徒は自分の意見を表明し、集団としての合意形成を学ぶ。秀樹さんはこの経験が息子の自主性や責任感を育んだと感じている。
9歳という幼さでの単身留学は、周囲から驚きの目で見られたという。しかし、秀樹さんは「息子が自分で行きたいと言ったことが決め手だった」と語る。年の差60歳の父子だからこそ、残された時間を意識し、子どもが望む道を最大限に支援したいという思いがあった。
現在21歳となった息子は、イギリスで培った自由な発想と自立心を胸に、次のステップへと進もうとしている。年の差を超えた父子の選択は、教育の多様性を改めて考えさせる。



