夏になると各地で発生する「ゲリラ豪雨(局地的大雨)」。かつては予測が難しいとされてきたこの気象現象も、現在はテクノロジーと“人の目”によって、直前の回避が可能になりつつある。ウェザーニュースでキャスターを務める江川清音氏に、実践的な対策と最新の豪雨予報の裏側を聞いた。
ゲリラ豪雨とは何か、その定義と発生メカニズム
ウェザーニュースでは「ゲリラ雷雨」と呼んでいますが、これは積乱雲が急速に発達することで、局地的に非常に激しい雨を降らせる現象です。ウェザーニュースの判定基準では、10分間の降水量を1時間換算して11ミリ以上となる強い雨のこと、としています。
夏に多いのは、地上の気温が上がることで強い上昇気流が生まれ、積乱雲が発達しやすくなるからです。積乱雲が成長すると、上空で横に広がる「かなとこ雲」が現れ、その真下では激しい雨が降っている可能性があります。
雷雨に遭遇したときの正しい避難行動
ゲリラ豪雨に直面したとき、例えば「目的地まであと5分」という距離だったら、ダッシュで帰るべきでしょうか。それともどこかで待つべきでしょうか。江川氏は「周辺の状況に合わせて判断していただきたいなと思います。判断のポイントは、落雷の危険、道路の冠水の有無、そして現在地の安全度ですね」と話します。
たとえ徒歩5分でも、ゲリラ豪雨の最中に屋外を無防備に動くのは非常に危険です。すでに激しい雨が降っていたり雷鳴が聞こえたりしている場合、家までの経路に低地やアンダーパス(線路の下などをくぐり抜ける道)がある場合は、冠水に巻き込まれる恐れがあるため、移動は控えてください。まだ雨も雷も始まっておらず、安全が確保できる状況であれば急いで帰宅するのも手ですが、基本的には無理をせず、頑丈な建物に一時避難していただくのが良いと思います。
見逃してはいけない3つの前兆
ゲリラ豪雨は、どれくらい待てばやり過ごせるものなんですか? それも雲の種類によります。いわゆる夕立のように数分待てば止む場合もありますが、積乱雲が発達してくると、雨の範囲が広いため、やり過ごすのに時間がかかってしまうこともあります。
一般の人でも見分けられる「危険な空の変化」として、江川氏はいくつか明確なサインを挙げます。1つ目は「急に空が暗くなること」。発達した積乱雲が太陽の光を遮るので、昼間でも夕方や夜のように暗くなることがあります。2つ目は「雷鳴」です。ゴロゴロと音が聞こえたら、すでに約10km〜15km圏内に雷雲がいるというサインです。
そして3つ目が「冷たい風」です。積乱雲の中で冷やされた空気が地上に勢いよく吹き下ろしてくるため、急にひんやりした風が吹くことがあります。猛暑の中で「急に涼しくなったな」と感じたら、それは激しい雨がすぐそこまで来ている前兆の可能性があります。
最新の予測技術と今後の傾向
早い段階で、積乱雲が育ち始めていることに気付けるサインとしては、空を眺めていて、ポコっと縦に盛り上がるような背の高い雲が出始めたら要注意です。また、遠くの雲の下に「雨柱(あめばしら)」と呼ばれる、地面まで届く灰色の柱のようなものが見えることがあります。そこではすでに激しい雨が降っている証拠ですので、その雲が自分の方に向かってきていないかを確認してください。
最近ではウェザーニュースのアプリで「ゲリラ雷雨AI判定」という機能もリリースしました。怪しい雲をスマートフォンで撮影するだけで、AIが雲の色や発達具合、風向きなどを考慮して危険度を判定してくれます。こういったツールもぜひ活用していただきたいですね。
雨雲レーダーに映っているときは、もうすでに雨を降らせている状態です。その前の段階、つまり「これから生まれる雲」を察知しなければいけないのが難しいところです。例えば、風と風がぶつかり合う境界線で突発的に生まれた雲は、AIでも予測が難しいことがあります。また、雲の底が非常に低い場合もレーダーに映りにくいことがあります。
ウェザーニュースでは、7月から9月の間は「ゲリラ雷雨予測本部」の専任チームを立ち上げ、24時間体制でモニタリングを行っています。世界各国の気象予測モデルを比較するのはもちろん、日本全国のアプリユーザーから送られてくる「ウェザーリポート」という空の写真や体感報告をリアルタイムで分析して、判定しています。
アメダスなどの観測機器は、あくまで「雨が降った後」のデータしか分かりません。しかし、リポートであれば「今、冷たい風が吹いた」「今、雹(ひょう)が降ってきた」というリアルタイムの変化がわかります。特に印象的なのは、予報センターが「怪しい」と目をつけたエリアに対して、ユーザーからドンピシャで発達中の雲の写真が届くことです。そのおかげで、雨が降り出す前の段階で「30分後に来ます」というプッシュ通知を送ることができるようになります。
さらに、全国約3,200箇所にユーザーが設置してくれている監視カメラ「ソラカメ」の映像も24時間チェックしています。
今年のゲリラ豪雨の傾向について、全国的には昨年よりも多い約11万回が発生すると予想されています。ピークは8月中旬で、太平洋高気圧が弱まるタイミングと重なると、湿った空気が入り込みやすくなり、発生頻度が高まります。また、最近の傾向として、夜になっても気温が下がらないため、夜間までゲリラ豪雨が続いてしまうケースが増えています。夜は周囲の状況が見えにくく、冠水した道路や開いたマンホールに気付かない危険もありますので、より一層警戒していただければと思います。



