日本近海で近年、海水温の上昇に伴いフグの北上と交雑が進み、毒のある部位が判別しにくくなるなど、日本人の食を脅かしかねない異変が起きている。宮城県気仙沼市の気仙沼漁業協同組合の担当者は「4、5年前から種別が見分けにくいフグが水揚げされ始めた」と危機感を募らせる。
フグの交雑、東北から東京湾まで拡大
水産研究・教育機構の水産大学校の高橋洋教授によると、近年の海水温の上昇に伴い、日本海に生息するゴマフグが津軽海峡を通り、水温の低い太平洋に流入。元々、太平洋に生息していたショウサイフグとの交雑が起き始めた。福島・茨城県沖で2012~14年に漁獲されたフグのうち、両種の雑種とみられる個体が約4割に上ったという。
異変は東北地方にとどまらない。愛知県などで繁殖していたトラフグも東京湾でマフグと交雑し、雑種が生まれている。フグは種類によって毒のある部位が異なり、厚生労働省が食べられる部位を定めているが、雑種は解明しきれておらず、同省が注意喚起している。気仙沼漁協の担当者は「見分けられる人が限られ、数が増えると対応が難しくなる」と懸念する。
海面水温上昇でホタテ大量死、米の品質低下も
気象庁によると、25年までの日本近海の海面水温は100年あたり1・36度の割合で上昇している。青森県・陸奥湾では高水温が常態化し、養殖ホタテが大量死。同県平内町では例年1万トン以上ある生後1年半程度の半成貝の水揚げ量が、昨年は約5000トン、今年は2000トン足らずに激減した。漁師が養殖をやめたり、加工卸売会社が倒産したりしている。漁師の蠣崎憲悦さん(91)は「海は変わってしまった。ホタテが駄目になったら湾内に仕事はない」と嘆く。
農作物の被害も甚大だ。23年夏には東北や北陸などが記録的な高温に見舞われ、新潟県産の「コシヒカリ」など暑さに弱いブランド米の1等米の比率が大幅に低下。「令和の米騒動」に発展した。秋田県大仙市のJA秋田おばこ管内では同年、高温に渇水が重なり、例年なら9割を占める「あきたこまち」などの1等米比率が4・4%に激減。さらに追い打ちをかけたのが、温暖化で激しさを増す大雨被害だ。秋田県では23年から3年連続で夏の豪雨に見舞われ、県内の農林関係被害額は計425億円に達した。
高温、渇水、水害のトリプルパンチを受けた大仙市の農事組合法人「強首ファーム」の田村智宏さん(49)は「暑さに強い品種への切り替えなど手段を増やし経営を安定させるしかない」と話す。
DNA判別技術で適応策を研究
気候変動は食料生産を危うくする。対策がとられなかった場合、今世紀末の水稲の収量は20世紀末より2割減り、コメが白く濁る白未熟粒の割合は4割に達するとの予測もある。一方、新たな適応策の研究も行われている。高橋教授らはDNAでフグの雑種の組み合わせまで判別できる技術を開発し、実装化を進める。高橋教授は「急激な気候変動による海洋生態系の変化は止まらないだろう。雑種は適応・進化の一つの形ともいえ、人間社会が変化に対応していく必要がある」と指摘する。



