熊本地震で最大震度7を観測した熊本県氷川町で、東日本大震災で孫の佐藤愛梨ちゃん(当時6歳)を亡くした上田俊孝さん(73)と妻佐恵子さん(75)が被災した。激しい揺れの中、2人はけがをせずに一命を取り留め、「愛梨が守ってくれた」と亡き孫娘に思いをはせた。
激震の中、手をつなぎ耐える
7月28日午後4時27分、自宅の居間でくつろいでいた2人は、突然の激震に身構えた。揺れは体感で40秒近く続き、時計や神棚などが床に落ちる中、ソファの上で手をつないで耐えた。揺れが収まるとすぐに屋外へ避難し、この日は車中泊を余儀なくされた。
家の中は棚が倒れ、割れた食器が散乱する状態となったが、2人の上に物が倒れたり落ちたりすることはなく、けがはなかった。寝室で額縁に入れて飾っていた愛梨ちゃんからの手紙や上田さんの似顔絵も落下しなかった。
東日本大震災で孫を失う
2011年3月11日、石巻市に住む娘の美香さん(51)から実家に「愛梨と会えていない」と電話があった。上田さんは「何とか生きとってください」と祈ったが、3日後に愛梨ちゃんの死亡が告げられた。愛梨ちゃんは幼稚園の送迎バスが津波と火災に巻き込まれ、他の園児4人とともに命を落とした。
おちゃめで思いやりのある孫だった。毎年のように妹の珠莉さん(19)と氷川町に帰省し、上田さんと車で出かけた際には「じさま、早くシートベルトをしないといけないよ」と笑って注意したという。
防災への取り組みと今回の地震
美香さんは全国の幼稚園や保育園での避難訓練支援など、子どもの命を守る活動を続けてきた。10年前の熊本地震以降は故郷の氷川町で毎年、小学生向けにリモートで防災講話を行っている。昨年8月には「道の駅竜北」に愛梨ちゃんの絵をラッピングした自動販売機が設置され、「迷わず高台へ」というメッセージも添えられた。今月4日には、災害時に無償で飲料を提供する機能を備えた自動販売機が町内の防災公園2か所に設置される予定だった。
今回の地震で、氷川町では5人が亡くなり、住宅被害は全壊と半壊で合わせて350棟を超える。石巻市にいた美香さんは両親に電話がつながらず、「命だけは守り抜いて」と祈るしかなかった。変わり果てた古里の姿に「何で熊本ばかり」と心を痛めた。
上田さんは「今回の地震も、防災に力を入れる契機にしないといけない」と話す。美香さんは「突然の大災害の中でも命を守れるように、これからも、愛梨に起きた出来事を通じて日頃の備えの大切さを伝え続けたい」と力を込めた。



