「懲らしめ」から「立ち直り」へ――。年齢や障害の有無など受刑者の特性に合わせ、必要な作業や指導を行う刑罰「拘禁刑」の導入から6月で1年が経過する中、刑務所が変わりつつある。受刑者同士が話し合いながら取り組む工作や、仮想空間「メタバース」を使った職業訓練といった多様なプログラムを通して、受刑者の更生や再犯防止につなげようとしている。
受刑者は「さん」付けで、高齢者向けプログラム
6月中旬、長崎県諫早市の長崎刑務所の工場内で、高齢の男性受刑者ら約10人が意見を出し合い、紙粘土や折り紙を使って七夕飾りを作っていた。そばにいた刑務官は受刑者の名字を「さん」付けで呼び、「もっと他の色も使ってみようか」と助言しながら柔和な表情で見守った。
これは拘禁刑導入後、新たに始まった高齢受刑者を対象にしたプログラムだ。塗り絵や計算トレーニングなど、さながら民間の高齢者施設で行われているようなメニューもあり、身体機能や認知機能、対話能力の向上を図るという。渡辺新介・次席矯正処遇官は「受刑者同士や刑務官との会話が原則認められていなかった以前と比べると、雰囲気が良くなった」と話す。
窃盗や覚醒剤の使用で8度服役してきた60歳代の男性受刑者は「以前は一人で黙々とする作業が多かったが、今は他の受刑者と話して意見も聞き、取り組むようになった。出所後は周囲に相談し、生活保護を利用するなどして再犯を繰り返さないようにしたい」と語った。
再犯率の高まりと受刑者の高齢化が背景
拘禁刑が導入された背景には、再犯率の高まりや受刑者の高齢化がある。法務省の統計によると、全国の刑法犯検挙者数のうち、再犯者の占める割合は2004年は35.7%だったが、2024年には46.2%に増加し、半数近くが再犯者となっている。2004年に刑務所に入所した受刑者のうち65歳以上が占める割合は4.2%だったが、2024年は13.8%となった。
拘禁刑導入に伴い、受刑者は高齢者や若年者、知的障害や精神障害のある人など24のグループに分類された。出所後に福祉サービスや就労につなげるため、高齢者には認知機能向上のための作業療法、精神障害者には障害者手帳取得の支援、若年者には就労支援などを行うようになった。
各地の刑務所で特色あるプログラム
こうした中、各地の刑務所では特色あるプログラムが広がっている。鹿児島刑務所(鹿児島県湧水町)では規範意識が高い受刑者約20人を対象に、農場の茶畑(9.2ヘクタール)で日本茶の栽培に取り組む。茶畑は塀のない開放的な環境にあり、受刑者が出所後に社会で働くための意欲を高める効果があるという。
女性受刑者を収容する麓刑務所(佐賀県鳥栖市)では、薬物使用の体験を共有するグループワークを実施。長期受刑者が多い熊本刑務所(熊本市中央区)では、受刑者と刑務官が対話をする中で、事件や自身の内面に向き合う対話実践(リフレクティング)を行う。
国と民間企業で運営する刑務所「美祢社会復帰促進センター」(山口県美祢市)では、インターネット上のメタバースの活用方法を学ぶ職業訓練を実施。川邉隆博調査官は「時代に合った職業訓練を取り入れ、出所後の就労につなげることが期待できる」と意義を語る。
専門家「刑務官の研修も重要」
刑務所の勤務経験がある浜井浩一・龍谷大教授(刑事政策)は「再犯を防ぎ、更生を促すためには、刑務官は受刑者と対話を重ね、障害や依存症といった特性を理解した上での指導が不可欠だ」と指摘する。その上で「受刑者一人ひとりに対応するために、刑務官の人数を増やすとともに、刑務官自身も研修を受けるなどし、プログラムに適したスキルを身に付けることも重要。今後は刑務所の取り組みについての検証も求められる」と話している。
拘禁刑は、更生のための必要な作業や指導を行う刑で、2025年6月以降に起きた事件の受刑者に適用される。これまでの刑務作業と新たな改善指導のプログラムを組み合わせ、受刑者の特性に応じた矯正処遇が可能となった。従来の懲役刑や禁錮刑の受刑者も同様の処遇を受けている。



