奈良市が建設を計画している新ごみ処理施設(クリーンセンター)を巡り、市は建設候補地を絞り込む最終段階に入った。候補地選定の契機となった市環境清美工場(奈良市左京)の移転を求める公害調停が成立してから20年余り。老朽化した工場はすでに限界を迎え、市は「先延ばしできない喫緊の課題」と市政課題の解決を急いでいる。
公害調停から20年、移転先選定が難航
1971年、奈良と京都の府県境近くにある奈良市左京に清掃工場が建設された。82~85年に4基の焼却炉が新設され、現在の市環境清美工場で使われている。一般的に焼却施設が安全に稼働できるとされる期間は20~30年。同工場ではすでに超過しているが、破損部分の修繕や部材の交換などを繰り返すことで焼却機能を延命している。
おおむね10年程度かかると見込まれる新施設の完成まで耐えられるように、同工場では今年6月から共通設備を含む焼却炉の大規模改修工事を行っている。同工場の担当者は「工場はもはや限界に達している。一刻も早く新しい施設を建設しないといけない」と危機感を募らせている。
住民の不安から調停申請、3524人が参加
新施設の建設計画はこれまで「移転」を前提に進められてきた。2005年に成立した公害調停があるためだ。03年、市環境清美工場がある左京地区の自治連合会を中心とした地域住民らでつくる「公害調停申請人の会」は、県公害審査会に公害調停を申請。申請人の会が発行した「公害調停の記録」では、焼却炉から出る排ガスに含まれるダイオキシンによる健康への影響について、住民から不安の声が上がっていたという。申請人の数は最終的に3524人になった。
20回に及ぶ話し合いの末、市は05年に調停に調印。調停条項には「新施設の建設計画をできるだけ早期に策定し、ごみ焼却施設の移転を実施する」と記され、候補地の選定は08年3月末を目標としていた。同会は「公害調停に強制力はないものの、民法上の和解契約と同一の効力を持つ」と指摘している。
現地建て替えは否定、候補地は北之庄町と大和田町
しかし、中ノ川町と東鳴川町での建設計画を断念したり、大和郡山市などとのごみ処理の広域化計画が破綻したりと、移転先選びは目標の年を過ぎても難航した。同会の吉田隆一代表は「この20年間、どうにかして実現してくれるだろうと期待していた。期日がずるずると延びて、地区内では『いつになるのか』という声も上がっている」と語る。
新施設の建設計画を議論する市議会の検討特別委員会では一時、現地建て替えの可能性を再検討するように求める意見も出た。申請人の会の代理人弁護士である田中啓義弁護士は「公害調停で決めたことを時間がたったからないがしろにするというのは、権力の横暴だ」と憤る。
県公害審査会は25年10月、市に対して公害調停の義務履行を勧告。市も「調停の変更には申請人3524人の同意が必要であり、実質不可能だ」と現地建て替えを否定している。
現在、新施設の建設候補地は、地質などの調査を終えた北之庄町と大和田町が有力視されており、最終候補地が決まれば移転がようやく現実味を帯びる。吉田代表は「2地区の調査が行われたことで、やっと前向きに一歩進んだという印象。今度こそ移転をかたちにしてほしい」と期待を込める。



