北海道・羊蹄山(1898メートル)で、爆風と濃霧に包まれた夜、山頂付近で動けなくなった60代の男性が、駆けつけた避難小屋の管理人に「遭難じゃない」と語った。夏とは思えない寒さの中、石ころが吹き飛ぶような風速20~30メートルの状況だったという。
「こんな夜は、おとなしくジンギスカン」
9合目付近の避難小屋の管理人・近藤英輝さんは、知人と肉を焼こうとしていた時、警察から「山頂付近で動けない方がいます」と連絡を受けた。近藤さんは箸を置き、現場へ向かった。ヘッドランプをつけると、眼前は濃霧で真っ白なスクリーンと化し、視界はほぼゼロ。見覚えのある岩や土地勘を頼りに山頂へ進んだ。
「おーい、おーい」と叫ぶと、どこからか声が聞こえ、近づくと風を避けるように身を伏せる人影が見えた。60代の男性は、開口一番「遭難じゃない」と語った。近藤さんは面食らったが、「意識ははっきりしている。とりあえず良かった」と切り替えた。
「初めて」ではなかった
男性は本州からやってきた。往復9~10時間の日帰りが基本の羊蹄山に「かなり遅め」に入山したが、「せっかく北海道まで来たから」と山頂を目指した。だが、日が暮れ、天候は悪化した。
北海道で管理人が常駐する山小屋は数えるほどしかない。管理人たちは、過酷な自然だけでなく、人の判断の揺らぎが遭難につながる瞬間を見てきた。証言から遭難者のリアルに迫る。



