京都府警は2026年6月から、70歳以上の運転免許保有者が免許更新時に受講を義務づけられている高齢者講習で、運転前に行う体操「ドライビング・ストレッチ」を導入した。体の柔軟性を高めることで、運転中の事故抑止が期待されており、全国の警察で初めての取り組みとなる。府警は今後、受講者のデータをチェックし、効果について検証する方針だ。
5分間の簡単な体操で可動域を改善
6月1日、京都市伏見区の運転免許試験場で行われた高齢者講習では、参加した6人の高齢者がモニターに映った警察官の動きを模倣し、首をひねったり肩を回したりする体操を行った。この「ドライビング・ストレッチ」は、椅子に座ったまま肩、首、背中の筋肉をほぐす短時間の体操で、日本自動車連盟(JAF)が2021年に日本作業療法士協会の協力を得て考案したものだ。
府警は6種類の動きを取り入れた約5分間の体操を高齢者に紹介し、「習慣づけてほしい」と呼びかけている。参加した84歳の男性は「簡単な動きだった。毎日続けたい」と話した。
加齢による柔軟性低下が事故リスクに
府警やJAFによると、加齢による身体機能の衰えの一つとして柔軟性の低下があり、それがハンドルやアクセル操作のミスにつながるという。日本作業療法士協会の研究論文によれば、60~80歳代は左右を振り向く際の可動域が若年層の約7割にとどまる。ストレッチなどの適度な運動は胸や腰周辺の筋力を維持し、体の可動域を広げる効果があり、操作ミスの防止や運転中の視界拡大に寄与する可能性がある。さらに、自身の運動能力の低下を自覚するきっかけにもなる。
JAFは2021年から、マイカーを使った実技講習会(ドライバーズセミナー)でドライビング・ストレッチを採用しており、ホームページで内容や効果を解説している。府警はJAFに協力を依頼し、6月から運転免許試験場での高齢者講習で試験的に導入した。
研究者と連携し効果を検証
高齢者講習では通常、実車指導が行われる。府警は研究者と連携し、受講者のストレッチ導入前後の運転を比較し、ハンドル操作などへの効果を調べる。2025年に実車指導を受けた約8100人の記録と比較し、具体的な効果が確認されれば、他会場での高齢者講習でも実施する予定だ。
府警の桐田達・運転者教育室長は「安全運転を長く続けるための一助になってほしい」と話す。地方では公共交通機関の利用が難しい「交通空白」地域が存在する。府警の検証に協力する佛教大学の奥野隆司助教(作業療法学)は「ストレッチで効果が出れば、交通空白地域の高齢者が安全に運転できる『運転寿命』を延ばすことにもつながる」と期待を寄せる。
高齢ほど運転ミスが増加する傾向
高齢者の身体機能低下と事故の関連は、京都府警の分析や警察庁の統計で明らかになっている。京都府警は2025年の1年間に運転免許試験場で高齢者講習を受講した約8100人分の実車指導の走行結果を調査。高齢になるほど運転ミスが生じる傾向が確認された。
左折時のハンドル操作で縁石に接触するなど「不適」と評価された割合は、70~74歳で7%だったが、85歳以上では約4倍の27%に上昇。段差に乗り上げた際のブレーキとアクセルの素早い踏み替えでは、70~74歳が13%だったのに対し、85歳以上は28%だった。府警は、筋力や柔軟性の低下に加え、判断力の衰えが操作ミスの一因とみている。
警察庁の統計では、2025年の死亡事故の原因がブレーキやアクセルの踏み違いなどの「操作不適」である割合は、75歳未満で10%だが、75歳以上では33%に上る。
高齢者講習の概要
高齢者講習は、免許証の有効期間が満了する半年前から、運転免許試験場や都道府県の公安委員会が指定した自動車教習所などで受講できる。内容は「座学と運転適性検査」(1時間)と「実車の運転」(1時間)で、75歳以上の場合、認知機能検査が追加される。



