北九州市戸畑区の住民らに長年親しまれてきた居酒屋「勉強屋本店」が、今月末で創業から約60年の歴史に幕を閉じる。名物の鶏の唐揚げは製鉄マンたちの活力となり、地域とともに歩んできた。しかし、店に携わってきた人たちの高齢化や仕入れ価格の高騰を受け、惜しまれつつ閉店することになった。
大正時代の建物で営む老舗
JR戸畑駅から徒歩5分ほどの商店街近くに、昔ながらの趣を残す店がある。大正時代に建てられたという店舗には、10人ほどが腰掛けられるカウンターと九つのテーブル席の座敷があり、どこか懐かしさを感じさせる。
1967年、「ママ」の松本礼子さん(84)の夫(故人)が友人2人と始めた。ほどなくして友人が抜けたため、礼子さんが店に立つようになった。オープンから2年後には、夫の弟の和男さん(76)が店を手伝い始め、「マスター」として今も調理場に立つ。
屋号の由来と名物の唐揚げ
屋号は「勉強しますよ!(安くしますよ)」との思いに由来する。手頃で満足度の高いメニューの象徴ともいえるのが鶏の唐揚げで、ニンニクやショウガを使わないのが特徴だ。しょうゆベースのあっさりした味わいで、食が進む。和男さんが料理を担当するようになってからは、昆布などから取っただしを加えるよう工夫。和男さんはぬかだきや刺し身など、他の料理の腕も独学で磨いた。
隣接する八幡東区で官営八幡製鉄所が操業して以降、「鉄都」の一翼を担い続ける戸畑区には製鉄所や関連企業などが集積し、その従業員らが足しげく店に通った。礼子さんは「3交代で昼から夜まで働く人もいたから、店は深夜2~3時頃まで営業していた」と振り返る。
閉店の決断と惜しむ声
オイルショック後の「鉄冷え」や人口減少の影響で近隣の飲食店が減っていく中、勉強屋は3世代で通う客や、大人数で利用する戸畑祇園山笠の関係者らに支えられた。だが、昨年は和男さんが腰を痛めて3か月休業した上、鶏肉などの価格高騰のあおりも受け、「開業60年目の今年、幕を下ろそう」と閉店を決めたという。
「居心地がよく、料理もおいしい。カウンターで飲み仲間と会話するのも楽しかった」と話すのは、50年来の常連(73)。元製鉄マンで、同僚らと通ううち店に魅了された。「なくなるのは寂しいね。これからどこで飲めばいいのか」と惜しむ。礼子さんは「お客さんに恵まれここまで来られた。感無量です」と涙ぐんだ。
2号店が味と名称を継承
近くには、学生時代に勉強屋でアルバイトをしていた大木圭太さん(40)が店長を務める2号店があり、唐揚げの味は引き継がれる。和男さんは「感謝の気持ちを込めて最後まで営業したい。勉強屋の名称や味は残るので、これからも楽しんでほしい」と話している。



