北海道の世界自然遺産・知床にある羅臼岳(1661メートル)で登山者がヒグマに襲われ死亡した事故から14日で1年が過ぎた。事故で息子(当時26)を失った父親(60)が同日、慰霊のために羅臼岳に登った。
「危険は続いている。決して1人で登るな」
再発防止を願う父親は、登山者に警鐘を鳴らす。1年前の8月14日昼、父親のもとに1本の電話が入った。相手は、息子と一緒に登山をしていた友人。かぼそい声で、息子が「ヒグマに引きずられていってしまった」と告げられた。
「どうか生きていてくれ」と祈るような思いで関西から北海道へ向かったが、警察署で変わり果てた息子と対面した。遺体袋に包まれており、署員から「ここでご対面いただきますが、顔だけにしてください。首から下は見ない方がいいです」と告げられた。泥や砂などの汚れはすべて除去されてあったが、鍛え抜かれた息子の身体が「(ヒグマに襲われて)細くなっていました」。
GPS時計に残された最期の足取り
事故後、息子が当日装着していた遺品のGPS時計が戻ってきた。時計には衛星から位置情報を取得し、移動したルートや距離などを記録する機能があった。おそるおそる2025年8月14日のデータを確認すると、登山開始から襲撃、翌日の昼ごろまでの33時間余りの軌跡が、移動速度や心拍数などの記録とともに残っていた。クマとのもみ合いをうかがわせる小刻みな動き、断絶した心拍データ、クマに引き回されたことがうかがえる動き……。「どんな気持ちだっただろう」「死ぬまでの間に何を考えただろう」——つらい。それでも何度も、画面の先の息子の最期の足取りを見返した。
慰霊への周到な準備
登山経験はほとんどなかった。それでも、どこで襲われたのか。どんな状況だったのか。自分の目で確かめたい。その思いが、山へ向かわせた。息子の遺品のウェアを着てトレーニングを始めた。低山を中心に冬の間も登山を続け、体力と経験値を高めた。クマの習性や対策も学んだ。14日、父親は友人ら計5人で慰霊のため羅臼岳に登った。



