熊本地震で震度6強を観測した熊本県八代市のインターネットラジオ局「ヤツシロラジヲ」が、市ゆかりの著名人らの声のメッセージや、生活支援情報などを被災者に向けて発信している。ラジオ局を運営する中村謙太郎さん(45)は「地域で必要とする人たちに少しでも役に立つ情報を届け、みんなでまた元気な町にしたい」と話している。
約70人の著名人がメッセージ
「あの時の団結心、思いやり、協調精神で何とか乗り切ってほしい。心から心から一日も早い復旧を願っています」。ロックバンド「ハウンドドッグ」の大友康平さんは、8日にメッセージを寄せた。大友さんは、1990年に市制50周年記念事業でコンサートに出演した。その時に学校から観覧を禁止された中学生から多くの署名が届き、後日、中学生向けに無料ライブを開いた縁がある。
メッセージの紹介は4日にスタートした。これまで、両親が熊本県出身という俳優・武田鉄矢さん、ロケで八代を訪れたことがある歌手・前川清さん、市出身のバドミントン元五輪代表・陣内貴美子さんら約70人が、思いを届けた。
武田さんは「武者ぶりんよか(かっこいい)、肥後のもっこすやけん(芯の通った熊本の人だから)、こっからがまだすばい(これから頑張るぞ)」、陣内さんは「きつか(きつい)時には、『きつか』と助けを求めてください。一緒に乗り越えていきましょう」と呼びかけた。
メッセージは、市内で「現場監督大ちゃん」の芸名でイベントの司会などを務める山口彩さん(50)が、陣内さん、お笑いタレント・ゴリけんさんらに声をかけて集めた。知人の中村さんにラジオで流すことを相談した山口さんは「想像以上の広がり。応援してくれる人がたくさんいることを知ってほしい」と訴えた。
地震2時間後から配信
ヤツシロラジヲは、市内で学習塾を経営する中村さんが昨年12月に始めた。ラジオ好きの中村さんは大阪芸術大放送学科を卒業後、大阪のコミュニティーFM局に勤務した。地元に戻り99年から、九州の魅力を伝えるネットラジオを配信していた。
7月末の地震発生時、中村さんは塾で授業中だった。室内の棚などは倒れたものの、生徒たち約10人にけがはなかった。片付けを後回しにし、2時間後には、自家用車の中でパソコンとスマートフォンを使ってラジオの配信を開始。開設された避難所や停電、断水の状況などを伝えた。「防災無線も流れず、必要な情報を早く伝えなければと思った」と振り返る。
地震で、中村さんと中学校で同学年だった男性が犠牲になった。自身や周囲の気持ちが落ち込むため、ラジオでは被害に関する情報を流さない。給水、支援物資といった行政の情報に加え、市民の炊き出し情報なども提供する。避難所や、車で避難する時の注意点も伝える。
AIからスタッフの声へ
情報は、当初AI(人工知能)が読み上げていたが、「思いを伝えきれない」と8日からスタッフらが録音した音声も流すことにした。市民にインタビューし、被災時の状況や困りごとなども届ける。中村さんは「みんなで作るラジオにしたい。一歩一歩、少しずつでも前を向いてもらえるよう、できることをやっていきたい」と力を込めた。
メッセージは、毎日午前9時と午後6時にまとめて流すほか、生活支援情報などの合間に、約10分間隔で放送する。今月末まで配信する予定。ラジオは、ホームページから聞くことができる。
災害時の情報源として高まる存在感
災害時、停電でテレビが見られなくなると、電池で動くラジオは貴重な情報源となる。
1995年の阪神大震災をきっかけに、災害時に簡素な手続きで開設できる「臨時災害放送局(災害FM局)」が制度化された。東日本大震災で大きな被害が出た岩手、宮城、福島3県では、災害FM局が計24市町で開設された。
2016年に熊本地震が発生した後には、熊本市や、2度の震度7に見舞われた熊本県益城町など4市町が放送局を開設した。益城町では、地震から約3年間放送された。
近年は、インターネットを通じて放送するインターネットラジオが、スマートフォンの普及で増加している。



