2026年上半期、飲食店の倒産件数は473件に達し、4年連続で過去最多を更新した(帝国データバンク調べ)。食材・光熱費の高騰や人件費の上昇が中小・零細飲食店を直撃し、価格転嫁に踏み切れない事業者の倒産が加速している。こうした飲食店の苦境が深まる中、東京・狛江市に、開業から黒字経営を維持し続ける書店がある。
4.5畳の小さな書店が6つの収益源で勝ち続ける
扉を開けると、未知の世界へと誘う「探偵・推理」の本棚が広がっていた。4.5畳という狭小空間でありながら書店販売に加えて雑貨、スイーツ、ドリンク、ランチ、さらには自社出版や映像上映会まで展開する。
2025年12月にオープンした「狛江ヒロミブックス」は、単一の商品に頼らない多角構造の収益ポートフォリオを組み上げ、開業してから黒字経営を維持し続けている。売り上げ構成はイベント25%、ランチ22%、書店販売18%、ドリンク15%、雑貨11%、スイーツ9%だ。
開業の壁を「TOKYO創業ステーション」と「チャレンジショップ」で打破
新規事業や店舗立ち上げでは「資金不足」「ノウハウ不足」「黒字化へのリスク管理」が壁となる。中小企業庁によれば「起業を妨げる要因として、創業希望者は資金不足、知識・ノウハウ不足などを課題に挙げている」(中小企業庁「創業支援施策について」より)という。
同店を営む二宮美紀氏は、東京都と東京都中小企業振興公社が提供する創業支援施設「TOKYO創業ステーション」と、低コストで実店舗運営を検証できるチャレンジショップ「創の実」(以下、チャレンジショップ)を積極的に活用することで、それらの壁を打ち破った。「探偵・推理をテーマにした書店」と「発酵食を取り入れたカフェ」を組み合わせた店舗の開業と並行して、自社出版まで実現している。
店舗の心をつかむメニュー構成とコンサルタント活用
二宮氏はこれまで広告会社勤務を経て、結局・出版を機に転職そして転職し、10年間専門職に。復職後は飲食業界に進み、保育園の給食マネージャーや総菜カフェの立ち上げ、出張シェフなどを経験。そのあと、両親の介護が必要になったことから社会福祉士の資格を取得して介護や障害福祉関連の仕事に就く。先の人生を模索しようと「TOKYO創業ステーション」に通うようになる中で、昔から好きだった探偵・推理に関する書店開くことを決意。2025年12月に「狛江ヒロミブックス」をオープンした。
「やりたいこと」を事業に落とし込む。構想を数字にするプロセス。構想を事業に変えるまでのプロセスには、踏まえるべきポイントがある。二宮氏が開業前に何をしたかをたどると、新規事業の立ち上げにも通じる実践の手順が見えてくる。
二宮氏はこれまで広告会社勤務を経て、保育園の給食マネージャーや総菜カフェの立ち上げ、出張シェフなど飲食分野でキャリアを積んできた。両親の介護をきっかけに社会福祉士の資格を取得。介護・障害福祉関連の仕事に就いた後、父をみとり、母が介護施設に入所したタイミングで「残りの人生、どんなふうに生きようか」と考えるようになったという。
転機は、探偵家・医師として50年以上活動を続け、フジテレビのドキュメンタリー番組「グレートジャーニー」でも知られる関野吉晴氏の講演会に通い始めたことだ。「目の前で闘志し続ける探偵家の姿を見て『できること』ではなく『本当にやりたいこと』を仕事にしようと心が固まりました」。関野氏の著作や関連作品に触れる中で、自身が魅了されてきた「探偵・推理」に特化した書店を事業化する構想が芽生えていった。
同時期、息子の学校でお世話になった知人が「創の実」狛江市に出店していたことを知った。これがきっかけとなり、いずれは店名の由来にもなっている愛犬「ヒロミ」を連れてできるお店作りを構想として、出店を意識し始めたという。
東京都には、起業家を目指すビジネスパーソンを支える2つの仕組みがある。起業に向けた相談や計画書作成、セミナーなどを無料で提供するTOKYO創業ステーションと、都内一等地の実店舗を低コストで借りながら経営指導まで提供するチャレンジショップだ。TOKYO創業ステーションはメンバー登録のみで利用でき、チャレンジショップは審査を経て採択された者が出店できる。
最初に相談先として選んだのが、東京都と東京都中小企業振興公社が連携して運営する創業支援拠点・TOKYO創業ステーションTAMA(東京都・立川市)だった。事業計画書の作成支援や専門家コンサルティング、各種セミナー、創業助成金の内容説明などを無料で提供しており、二宮氏は働きながら通い込んだ。
並行して、東京都・大田区蒲田の独立系書店「旅々社」オーナー・小鳥遊氏が開催する「本屋と相談」に参加。「書店販売だけで黒字化するには時間を要する」という現実とコスト構造を、数字で教わった。「書店販売以外にも収益の柱を作る」方針を固め、カフェの併設を決めた。カフェのテーマは「発酵」とした。フードロスが少なく、寝かせるほど価値が増す発酵食品の特性が、仕入れとコスト管理にも合理的で、探偵・推理というテーマとも食文化という点でつながると判断したからだ。
コンサルタントをフル活用し高精度な計画書づくり
東京都のチャレンジショップへの出店は、書類審査と面接審査を通過しなければ始まらない。新規独自性や出店実現性、商店街活性化への貢献度、経営者の資質・能力といった項目によって評価される。
チャレンジショップへの出店に向けた準備段階で、二宮氏が活用したのがTOKYO創業ステーションのプランコンサルティングだ。相談窓口には、起業を目指す経営者を伴走支援するプランコンサルタントがいる。それぞれ得意分野の異なる専門家が、コンサルタント間で連携を取りながら支援するという。
「さまざまなコースがあって、ネットでも講義は受講できます」と二宮氏が話すように、費用を気にせず何度でも相談できる仕組みだ。担当制を利用しつつ、専門領域の異なるコンサルタントにプランを持ち込み、それぞれの指摘をまとめて事業計画書に反映していった。一人では気付けない視点を、複数の専門家との対話で補ったという。
二宮氏は、計画書を書く前に「現場で確かめる」姿勢を大事にしていたと話す。自ら参加したピアグループ(ミドルエージ向け)のワークショップでは、市場ニーズについてのアンケートを取った。「旅々社」以外にも、いくつかの独立系書店オーナーに会いに行き、事業の相談をした。机上の計画ではなく、現場で得た事実と数字が計画書の説得力を高める。この点は、新規事業の概算書や提案書を作成する際にも通じる視点だ。
コストについても同様にさまざまな助言を求めたという。自社出版についても、蒲田の書店オーナーが「部数はあんまり出さなくていいかもしれないよ。印刷代はこのくらいだよ」と教えてくれたという。
「実際の数字を見せてくれたので、経営するイメージがわかりました。『これくらいのコストだったら、まずは自分でなんとかしよう』と判断できました」。自分の手で試算し、実現できると判断してから書いた計画書には、説得力が伴う。
「なぜここでなければならないのか」を一言で言える差別化の軸を持つことが大切だと語る二宮氏。社内外の承認を引き出す。事業計画書を通過させた「3つの差別化軸」。関連記事「硬骨のようなルールは不要」マックと対極の文化で「44カ月連続成長」したバーガーキングの組織論。バーガーキングの急成長の裏にあるのは、徹底した標準化を図る競合とは対照的な、個を尊重する精神だ。チェーンストア理論に逆行する「硬骨的な」組織運営が、なぜ外食産業でこれほどの成功を収めるのか。田野一善社長に、装備の自由や「60%の速攻」、家族まで感動させる報酬制度など、独自の約束術を聞いた。



