北海道稚内市沖で7月に起きたボート転覆事故を機に、ナマコの密漁が浮上した。この事故で転覆したゴムボートは、規制をかいくぐってナマコを狙う「密漁船」だった。道警は計9人を漁業法違反(特定水産動植物の採捕)容疑で逮捕し、旭川地検は今月7日までに全員を起訴した。
事故機に9人起訴、役割分担か
事件は7月14日未明、稚内市抜海村の沖合でボートが転覆し、1人が死亡した事故を機に発覚。道警は40〜60歳の男9人を逮捕し、起訴状では、9人は7月13日午後8時50分頃から密漁を開始し、ナマコ約1.7キロを取ったとされる。海に潜る「潜手」や陸で見張りをする「陸回り」などの役割に分かれていたとみられる。
男たちは札幌市や函館市などから集まり、1人は暴力団組員だった。道警は7月31日、札幌市中央区の組事務所を捜索。密漁が暴力団の「シノギ(資金獲得活動)」になっていた可能性もあるとみている。
中国で高級食材、価格高騰も
なぜナマコが密漁の標的になるのか。日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、乾燥させたナマコは中国で高級食材として人気が高い。農林水産省の統計では、輸出される水産加工品のうちナマコは毎年上位に入り、主に中国や香港に輸出されている。漁獲量は北海道が全国で最も多く、1キログラムあたりの平均価格は2018年に5000円台に達した。
しかし、ナマコ漁をめぐる環境は厳しさを増している。2023年8月、東京電力福島第一原子力発電所の処理水海洋放出を機に中国が日本産水産物の禁輸措置をとり、輸出が減少。2025年のナマコの平均価格は2795円に下がり、漁師の収入減にもつながっている。
漁師も懸念、密漁対策強化
密漁による漁獲量の減少も懸念される。稚内市沖で約30年間ナマコ漁を行う60歳代の男性漁師は「お金も時間もかけて漁に従事しているのに、横取りされるのは悔しい」と話す。稚内漁協の担当者も「資源が減れば、後継者が漁業に魅力を感じなくなってしまう」と危惧する。
道警などによるナマコなどの密漁の摘発件数は2017年に329件に上り、その後も高止まりが続く。近年、密漁への法規制は厳しくなっている。2020年施行の改正漁業法で、無許可でナマコを取った場合の罰金額の上限は引き上げられ、漁獲物に番号をつけて取引記録を追跡できるようにする水産流通適正化法も2022年に施行された。
道なども取り締まりを強化している。密漁は夜間に行われることから、道は2021年、全国に先駆けて密漁対策にドローンを導入。稚内、釧路、函館の3港にある漁業取締船に配備され、ズームや夜間の撮影にも対応している。
繰り返される密漁の背景について、ある捜査関係者は「密漁品と知りながら、正規品に混ぜるなどして取り扱う業者もいるのではないか」とみる。道警は暗躍する中間業者がいるとみて、流通ルートの解明も進める方針だ。



