甲斐駒ヶ岳や仙丈ヶ岳を目指す登山者が自家用車から南アルプス林道バスに乗り換える拠点、伊那市長谷黒河内の「戸台パーク」。8月1日、土曜日の午前10時5分発の北沢峠行き市営バスの乗車券を求めて、登山客が券売機に続々と向かった。
「何これ? わかんない」
タッチパネル式券売機の画面を見た愛知県からの男女グループから声が上がった。画面に表示されていたのは「登山者協力金」の文字。登山道の維持管理や自然環境の保全などの資金に充てるため、伊那市や飯田市、大鹿村などでつくる「南アルプス(伊那谷エリア)山岳環境保全連絡協議会」が昨年6月から登山者に任意で募っているお金だ。
昨季は約190万円、収受率は6.8%
昨季は各山小屋などに設置した協力金箱などで徴収し、約190万円が集まった。伊那谷エリア全体の登山者見込み数で割った収受率は6.8%で、今季は認知度や収受率向上を目的に、利用者が多いバスの乗車券購入時に協力金も支払えるように改めた。
今年度の協議会予算では、収受率20%で560万円の収入を計上。伊那市南アルプス課の伊藤保人課長は「昨季はバス利用者の収受率は9%ほどだったが、今季は30%以上が協力してくれており、効果が出ている」と手応えを話す。
選択必須の画面に戸惑いも
一方で、画面中央部に、1口(1人)500円から5口以上まで、五つのボタンが大きく表示され、協力するかしないかを選択してからでないと乗車券の購入に進めないため、戸惑いの表情を浮かべる登山者が一定程度いた。伊藤課長は「協力金のことを知ってもらえれば反対する人は少ないと思う。周知に努め、アンケートの結果を見て改善が必要な点があれば改善したい」と話す。
北アルプスでは協力率低迷、模索続く
登山者協力金制度は、県内では北アルプス南部の槍・穂高連峰と常念山脈エリアで2021年9月に始まった。それまで登山道整備に協力してきた山小屋がコロナ禍で経営悪化し、人を割く余裕がなくなって維持管理が難しくなったことが背景にある。
環境省が「北アルプストレイルプログラム」の名で統括し、現在は北ア全域に拡大。山小屋に設置した協力金箱などで募っているが、支払件数を山小屋やテント場の利用者数で割った協力率は、周知不足もあり南部で開始から2~3%台と低迷。昨季も約390万円と伸び悩んだ。現在、登山アプリ運営会社と連携し、アプリ上での周知や協力金を募る仕組みづくりを検討するなど模索が続く。
同省中部山岳国立公園管理事務所の仁田晃司・登山道保全調整等専門員は「単なるお金集めではなく、登山道の維持管理という問題を通じて、登山者に自らの山との関わり方を見つめ、安全に登山を楽しんでもらうことがプログラムの目的。あくまでも協力というスタンスを変えることなく、訴えていかなければいけない」と話す。
声がけで協力得る山小屋も
積極的に登山者に声がけすることで、多くの協力者を得ている山小屋もある。南アルプス・聖岳や光岳の登山口にある聖光小屋(飯田市)だ。定員18人の小さな小屋で、宿泊客が集まる夕食時に、登山道の危険箇所や整備活動などについて説明し協力金制度への理解を求めると、ほとんどの登山者が協力してくれるという。
管理人の仲山岳典さん(64)は「協力金箱をただ置くだけではなく、人が呼びかけることで、みなさん快く協力してくれている」と話す。仁田専門員も「大きな山小屋はオペレーション的に難しい部分もあるが、北アルプスでも精力的に取り組んでいただいている山小屋では多くの協力金が集まり、積極的に声がけしている啓発ゲートの協力率も高い。まずは取り組みを理解してもらうことが始まりだ」と話した。(一條裕二)



