歯科衛生士による麻酔注射の慣行化を目指す国際歯科医療協会(IDMA)は30日、麻酔注射に関する講習会を都内で開き、全国から衛生士ら歯科医療従事者が参加した。衛生士たちが実際に互いの歯茎に麻酔を打ちあう珍しい実習が行われ、これまでほぼ歯科医師だけが行ってきた業界の慣例打破に向けた歩みが進んでいる。
模型では分からない感覚を体得
18回目となる今回の講習会には、衛生士22人と歯科医師2人の計24人が参加。約8時間かけて、IDMAに在籍する歯科医師ら講師から、麻酔注射に関する知識などの座学と、人体や模型への注射といった実技の双方を学んだ。
ハイライトとなる実技講習では、衛生士同士が互いに「被験者」となって麻酔注射を打ちあった。衛生士のほとんどが人体への注射は初めてで、講師の指導に真剣に耳を傾けながら緊張した面持ちで取り組んでいた。
衛生士・技工士の田中美咲さん(28)は講習後、「(相手が)痛くないかなという不安があり、とても緊張した。自分が思っている以上に強い力が必要だった」などと率直な思いを語り、「これからも練習を重ね、院内で技能を役立てたい」と意気込んだ。
衛生士の須藤恭子さん(45)も「麻酔液が漏れていないか、深く刺しすぎていないかなどに気を遣った」と話し、「練習用模型では分からない微妙な感覚が(人体では)よく分かった。とても貴重な体験だった」と振り返った。
国家資格で認められるも慣例が障壁に
国家資格である歯科衛生士による麻酔注射は、歯科衛生士法で認められているが、国内ではこれまで歯科医師しか打たないという慣例があった。そのため、大部分の衛生士が実技経験が乏しいのが現状だ。
IDMAでは、衛生士が麻酔を打つ環境を構築することで、衛生士の地位向上や歯科医療業界全体の業務効率化を目指しており、令和6年秋以降、こうした講習会を全国各地で定期的に開催。技能の定着化を図ってきており、延べ1000人を超える衛生士が参加してきた。実際に衛生士同士が打ちあう実習を行っている業界団体は現在、国内ではIDMAのみだという。
国や業界も後押し、課題は患者理解
国や業界も動きだしている。厚生労働省は一昨年に業界向けにガイドラインを出すなどして、慣行化を後押ししている。国内のいくつかの衛生士学校が来年度から麻酔注射のカリキュラムを導入する。
横浜市内で歯科医院を経営する小田切憲院長(51)は、こうした潮流に関心を示す一人で、今回の講習会に衛生士2人とともに参加した。これまで衛生士には打たせてこなかったが、「治療の手を止めて麻酔を打ちに行くなど大変で非効率な状況だった」と振り返り、衛生士による麻酔注射に期待。「衛生士が打てるようになるととても助かる。なるべく早く打てるよう院内で体制を整えたい」と力を込めた。
一方、IDMAなどによると、衛生士による麻酔注射の普及・慣行化には課題もある。なかでも大きいのが、患者への理解促進の必要性だ。これまでの産経新聞の報道に対しても「歯科医師ではない人に打たれるのは怖い」「自分だったら断る」などネガティブな声が寄せられることが少なくなかった。
こうした声について、IDMA顧問の歯科医師、大津隆弘さんは「国家資格の有資格者であり、必要な知識や経験も積んでいる。法的に問題もない。病院で看護師が注射するのと近い」と解説。その上で「患者としっかりとコミュニケーションを深め、一人一人から地道に理解を得ていくことが大切だと考えている」と話した。



