がん患者が対話を通して生きる意味を考える「がん哲学外来」。県済生会病院(福井市)に実践の場として設けられた、患者と家族、医療者らが語りあう「メディカルカフェ」は、今年で15周年を迎えた。病気を抱えながらも自分らしい人生を生きようとする患者に寄り添い続けている。
延べ3400人参加、全国143か所で運営
がん哲学外来は、順天堂大名誉教授の樋野興夫さんが、「病気は体の一部であって、人生や人格すべてではない。がんであっても笑顔で生きられるよう支援したい」という願いから提唱。実践の場として、患者や家族が悩みや不安を語りあう「カフェ」が、病院のほか、公民館や薬局などで開かれている。一般社団法人「がん哲学外来」によると2025年度時点で全国143か所で運営されているという。
一生のうちに罹患する割合が2人に1人とされるがん。同法人の理事で、県済生会病院でメディカルカフェの運営に携わる公認心理師の車屋知美さんは「がん医療が進歩し、人はがんとともに生きる時代になった。その分、就労や家族関係、人生設計など多様な悩みや不安に向き合う時間や場が大事になっている」という。
15周年記念講演、個人面談も
県済生会病院では11年から、患者や家族、医療スタッフらが集うメディカルカフェが月に1度開催され、医療者に1対1で抱える悩みを気軽に打ち明けられる個人面談も行われている。これまで延べ約3400人が参加し、「ここがあるから頑張れた」「参加すると心と体が軽くなる」といった声が寄せられているという。
今年8月7日、15周年を記念して同病院で樋野さんの講演があり、カフェの参加者たち10人は樋野さんの言葉に耳を傾け、仲間と語り合った。この日、樋野さんは患者ら3組の個人面談に応じた。6年前に乳がんの手術を受けたという福井市の女性(68)が再発の不安を口にすると、「病気であっても病人でないと思うこと」と応じた。「自分が与えられた役割は何か考えてみて。自分ができることを考えることで心が豊かになるよ」と語った。
女性は「対面でゆっくり会話し、安らぎを感じた。自分に向けられる優しい言葉を聞くと気持ちが落ち着いた」と話した。
今後の展望、誰でも行きやすい場所で
車屋さんは「医学が進歩しても、がんと診断されて強いショックを受け、周りに相談できない人も多い。より多くの人に安心して参加してもらえる場所であり続けたい」と話す。
一般社団法人「がん哲学外来」の宗本義則理事長は、患者との向き合い方について「患者の心を開くには、悩みを聞いて共感することが大事だ。悩みのベースは、現状と自分の価値観、人生観がうまく一致していないことにある。患者が悩みを自覚していないこともあり、話をすることで悩みを整理できる。それぞれの悩みに向き合うことが最終的にいい治療につながり、患者の幸せに結びつく」と語る。
今後の活動の展望については「誰でも行きやすい場所で誰でも開催できるのが、がん哲学外来のカフェのコンセプト。病院以外にも一般の家やデパートなど、その日の気分によって選べるようなスタイルで広がってくれるのが理想だ」と述べた。