岡崎医療刑務所(愛知県岡崎市)で給食のメニュー作りや受刑者の調理指導を担当する管理栄養士の黒柳桂子さん(57)が、著書「めざせ!ムショラン三ツ星~刑務所栄養士、今日も受刑者とクサくないメシ作ります」を3年前に出版した。同書を原作とするNHKのコメディードラマ「ムショラン三ツ星」(全5回)が5~6月に放映され、月刊マンガ雑誌でコミック作品の連載が始まるなど、反響が広がっている。
刑務所での出会いと驚き
黒柳さんは岡崎市生まれ。椙山女学園大学家政学部(現生活科学部)を卒業し、老人施設や病院、学校などで管理栄養士を務めた後、2012年に法務省の管理栄養士(法務技官)として同刑務所に赴任。調理を担当するのが受刑者で、指導するのが自分だと知り、「まさか受刑者と接することになるなんて」と驚いたという。
しかし、炊場で接した受刑者は、娘の成長を願う父親や、母親の生活を案じる息子など「普通の男子たち」だった。給食の予算は1日3食で合計500円程度。その範囲でおいしく健康につながるメニューを工夫する。炊事担当の受刑者は12人で、調理経験のない人もいるため、思わぬ出来事も起きる。「魚に少々塩を振りましょう」と指示したらサケの切り身に盛り塩のように塩が載せられていたり、冷凍コロッケ約30個を一度に揚げ物機に投入して次々と破裂させたりしたという。
「平等」の重みと更生の力
「俺らには責任が重すぎます」と受刑者が話したのは、厚焼き卵を包丁で20等分にするよう指示した時。大きさが少しでも違うと受刑者の間に不満が広がるため、刑務所内の「平等」の重みを知ったと語る。
著書では登場人物を仮名にしたが、内容はリアル。素直な書きぶりに出版に反対する上司もいたが、更生における食の大切さを説く内容が評価され、出版に至った。今では法務省矯正局が公式X(旧ツイッター)でNHKドラマを告知するほど信頼されている。
出版を機に講演依頼が寄せられ、昨年は東京や大阪、福岡などで計30回を超えた。6月に岡崎市で開いた講演会では自著の裏話を明かし、元受刑者や元刑事との座談会で本音トークを披露しつつ、食がもたらす更生の力を語った。「『おいしい』という言葉を聞くとうれしいし、自信につながり、やる気も出る」と話し、調理をきっかけに受刑者の行動に変化が生まれるという。
最近、調理に不慣れな受刑者の失敗を見た別の受刑者が「やり直そう。みんな楽しみにしているんだから」と話しかけるのを聞き、目が潤んだ。「刑務所の中では、そういうことがいっぱいあるんです」。食の力を信じ、奮闘する日々が続く。



