夏の風物詩である花火大会は、江戸時代から続く伝統を持つ一方で、過去には交通難や不況による中止、近年では熱中症や花火の燃えかすへの苦情、費用高騰による中止や規模縮小など、さまざまな壁に直面してきた。その盛衰を過去の紙面から振り返る。
過去にも中止相次ぐ 交通難と不況の影響
1975年(昭和50年)7月12日付朝刊の社会面には、〈夏さびしく 減り続ける花火大会 “両国”ことしも絶望 首都圏ではわずか8か所〉という記事がある。この記事は、荒川や江戸川の河川敷の花火を紹介しつつ、〈「両国の花火」として全国に名のとどろいた隅田川の川開きは、美濃部都知事の強い希望にもかかわらず、ことしも復活は絶望的。東京周辺の花火大会といえば、最盛期のさる三十六、七年(引用者注:1961-62年)ごろは十数か所もで開かれたものだが、ことしは昨年よりさらに二か所減って、わずか八か所だけ。ここにも不況の余波は色濃く、ちょっぴりさびしい夏になりそうだ〉と伝えている。
「両国の花火」が中止されたのは1962年(昭和37年)のことだ。同年5月16日付朝刊の社会面には、〈「両国川開き花火」中止 ことしは交通難のため〉という記事がある。中止の理由について、〈窮迫した交通事情に加えて隅田川上での高速道路橋ゲタ工事、久松町付近の地下鉄工事などもかさなり、強行した場合はかなりの危険がある〉とし、主催した両国花火組合が中止を決めたと報じている。また、〈両国橋を中心にした周辺の交通は平常でもマヒ状態が多いのでことしは自粛すべきだというのが組合員のほとんどの意見だった〉という。当時は急激な人口増と自動車の普及で“交通戦争”と呼ばれるほど事故が多発し、2年後に迫った東京オリンピックに向けて高速道路や地下鉄などの整備が急速に進められていた時期だった。同組合の組合長は「ことしは中止するが伝統あるものだけに事情をみてかならず再開するつもりだ」と語っている。
17年ぶりに復活 隅田川花火大会
一度中断した大規模イベントの再開は容易ではなく、開催の影響が複数の区にまたがるため調整も難航したようだ。1977年(昭和52年)8月に地元の町会青年部により小規模な大会が実現し、完全復活を遂げたのは翌1978年で、実に17年ぶりの開催となった。開催翌日の7月30日付朝刊の社会面では〈満開 隅田川の宵 「ワーッ」どよめく80万人〉との見出しで、本社ヘリからの空撮写真とともに伝えている。
記事は、〈東京に、夏の夜の楽しみが戻ってきた。五メートルの夜風が心地よい、隅田川の夕暮れ。早くから遊歩道に席を確保した老夫婦も、浴衣がけの娘さんたちも、ランニング姿の子どもも、皆かたずをのんで空を見上げ、開いては散る“火模様”に歓声をあげた。川幅が狭いため、「大輪」ばかりとはいかなかったが、「この単純な美しさが好き。ぜひ続けてほしい」と多くの人が口をそろえた。十七年ぶりに再開された下町の花火の祭りが、来年、再来年、どんな規模で引き継がれてゆくか。八十万人みんなが期待をつないでいるようだった〉と伝えている。
以来、半世紀近くが経過し、コロナ禍での中断などもあったが、「両国の花火」は「隅田川花火大会」となって、現在も開催されている。
ハイテク化と高まる逆風
過去の紙面には、各地の花火師に取材した記事も多い。花火大会では、暗かったり遠かったりして仕事ぶりを直接見ることが難しいだけに、興味を引かれる人も多いのかもしれない。火薬を配合して花火を作るのは江戸時代から続く作業だが、近年は点火時間をコンピューターで精密に制御するなど、打ち上げにはハイテクも駆使されている。
2021年(令和3年)の東京オリンピックでは、柔道で日本選手の活躍とともに、毅然と試合を進行する日本人女性審判員の姿が印象に残った。その天野安喜子さんは、江戸花火の老舗「鍵屋」15代目の花火師でもある。大会前の同年7月4日付朝刊二面[顔 Sunday]で紹介されており、高校時代に元世界女王の山口香さんに一本勝ちした強豪選手だったが、大学卒業後に引退し、家業を継ぐとともに、審判として柔道に関わり続けた。記事では、〈花火大会では打ち上げる花火の色や形など演出を考案し、総指揮を執る。音やリズムにこだわり、「ずれがあるのが人間らしい」と、ほとんどの場合は手で合図を出す。「花火師としての覚悟だったり、瞬時の判断やリズムが審判に生きている」。普段は屈託のない笑顔で話すが、畳の上では凜とした立ち姿。柔道と花火、日本の二つの伝統に携わる集中力のスイッチに、ずれはない〉と紹介されている。
近年は、夏の風物詩だった花火大会が、秋や冬に開催されることも増えてきた。今年1月10日付朝刊解説面「New門 ニュースの門」〈夜空の大輪 冬も魅了〉によると、〈近年は熱中症や台風などの天候不順が起きやすい夏を避けるケースも目立つ〉として、「小山の花火」(栃木県小山市)、「世田谷区たまがわ花火大会」「川崎市制記念多摩川花火大会」などの例が紹介されている。〈空気が乾燥して水蒸気が少ないため、空が鮮明に見える〉などのメリットもあるという。
天候のほかにも、近年は厄介な問題が増えている。2024年(令和6年)8月29日付朝刊の埼玉県版に〈夏の花火大会に逆風 中止や規模縮小相次ぐ〉との記事がある。〈夏の風物詩の一つ、花火大会に「逆風」が吹いている。花火の燃えかすが飛散することへの苦情が増えている上、花火の価格や警備員の人件費が高騰している〉として、埼玉県で狭山市や草加市の大会が中止になった事情を伝えている。「狭山市入間川七夕まつり」が中止となった原因の第一は燃えかすへの苦情で、〈打ち上げは入間川の河川敷で行われてきた。周辺には、近年建て替えが進む住宅地が広がっており、風向きによっては燃えかすが住宅の屋根などに落ちる。住人からの苦情が寄せられていたという〉。会場が広く暗いため、警備員の人件費高騰も打撃だという。草加市でも〈花火代や警備費用などがこれまでより2~3割ほど高騰〉して予算が不足、中止を決めたという。



