福島支局長の岡田卓史氏は、年に2回の健康診断で「体重を落としましょう」「運動しましょう」と言われるたびに、なるべく歩こうと思っている。平日は福島支局が入るビルの4階までの階段(62段)を上るが、あまり面白くない。そこで週末に時間があるときは山歩きや遊歩道の散策を楽しんでいる。歩いた後にお風呂で汗を流せれば最高で、山も温泉もあちこちにある福島なら比較的容易にそれができる。英国の登山家マロリーの名言「なぜ登るのか? そこに山があるからだ」に触発されたわけではないが、登って下りて入浴までを半日で楽しめる手軽なコースから巡ってみようという。
吾妻小富士から温泉へ
福島支局の一つ上の階から眺める吾妻小富士(標高1707メートル)のシルエットが好きだ。サクラが咲く時期には山肌に残る雪がウサギの形に見える「雪うさぎ」がとてもきれい。農家が穀物の種をまく時期の目安となることから「種まきうさぎ」とも呼ばれ、福島市の春の風物詩となっている。何度も見ていると、吾妻小富士を歩いてみたくなった。
初夏の週末、ドライブがてら「磐梯吾妻スカイライン」へ向かった。6月に公開された映画「免許返納!?」のロケ地にもなった山岳観光道路。最近は県内のあちこちでクマが出没しているため、念のためクマ鈴や撃退スプレーを持って行く。スカイラインでは10頭ぐらいのサルの群れが悠々と道ばたを歩いているのを見たことがあるが、幸いクマには遭遇していない。
急カーブが連続する山道を走り抜けて、目指すのは浄土平レストハウス。駐車場からすぐそばの階段を10分ほど上ると、火口がガバッと開けてくる。直径約500メートルという火口のヘリを歩いて一周することができる。市街地や水田の広がる遠景を眺めたり、途中で休んだりしながらゆっくり歩いて45分ぐらいか。途中アップダウンが激しく、足をとられて尻餅をつくような人もいるが、なかなか味わえない圧巻のパノラマは一見の価値がある。スニーカーで歩ける手軽さも魅力だが、さすがにサンダル履きは危ない。
火口から駐車場に戻って、北に下りれば高湯温泉が、南に下りれば土湯温泉がある。飯坂温泉と併せた「福島三名湯」のうちの二つである。高湯にも土湯にも日帰り温泉施設があるので、どちらかに入って帰ることにしている。
半田山のハートレイクと歴史探訪
JR東北線の福島駅から北へ3駅目にある桑折駅。4月末、半田山(標高863メートル)の山開きに合わせて駅からシャトルバスが出ているというので行ってみた。お目当ては山から見下ろす半田沼の美しさ。農業用水のためきれいに見える時期が限られており、山開きのゴールデンウィーク中がちょうど見頃だ。
大勢の人と一緒に登っていく。「クマに注意」の大きな看板があって少し心細くなる。今回はクマ鈴を持ってくるのを忘れてしまったが、鈴を持っている人に前と後ろで挟まれるようにして登っていく。2時間ほどかけてゆっくりと進むと、半田沼が一番きれいに見えるポイントにたどり着く。ハートの形に見えることから「ハートレイク」とも呼ばれているそうだ。多くの人が写真を撮ったり、撮ってあげたりして混雑している。山頂まではあと少し。山開きを祝って、桑折町の日本酒が振る舞われていた。おいしかった。
帰りは1時間ほど下っていく。さっき上から見た半田沼まで来ると、周囲に多くの花が咲き誇る美しい場所だった。福島市の観光名所・花見山に少し似た雰囲気で、花見山は「桃源郷」とも呼ばれているが、花々に彩られた半田沼も「桃源郷」である。
半田山はかつて日本有数の銀山だったそうである。少しコースから外れた方に歩いていくと、坑口「中鋪跡」が残されていた。銀山操業廃止後の昭和40年代に資源調査のために掘削されたもので、江戸時代からの坑道につながっているという。
桑折町では、アニメ「機動戦士ガンダム」のキャラクターデザインを手がけた漫画家・安彦良和さんが描いた歴史漫画「半田銀山昔語り」を刊行するなど、町の歴史を後世に伝えていこうとしている。安彦さんの父祖のルーツが半田山周辺にあるのだという。町教育文化課の井沼千秋・主任学芸員は「これまでは桑折町に来ていただかないと安彦先生の歴史漫画は買えなかったが、郵送してほしいという引き合いが各地からあった。今年度から東京の本屋さんに委託してオンラインで購入できるようにしている。全国、全世界の人に桑折の歴史遺産を知ってもらえたら」と話す。
仙台藩伊達氏発祥の地としても知られる桑折町は銀山以外でも歴史的情緒を感じさせてくれる。奥州街道・羽州街道の分岐点(追分)が駅から歩いて数分の所に残されているし、国指定重要文化財の旧伊達郡役所を見学することもできるし、伊達政宗の曽祖父・稙宗が築城したという桑折西山城跡も近くにある。国の史跡にも指定されている山城の跡は、小高い丘に広大な遺構があって、隅から隅まで歩くと1時間ほどかかった。半田山や郡役所、山城跡を散策した後は宿泊研修施設「うぶかの郷」に立ち寄ってお風呂でゆっくりと疲れを癒やすのがいい。
霊山と花塚山、そして会津の墓所
支局から自動車で40分ほど東に行ったところにある霊山(標高825メートル)にもトライしてみた。6時間ほどかかるトレッキングツアーには挑戦する自信も体力もないので、数時間で登って下りてこられるコースにした。こちらは山を登ると言うより岩をよじ登ると言った方がいい。はしごがかけられた大きな岩を越えたり、岩と岩の間をくぐり抜けたりと、なかなか手応えがある。登山口付近にある「りょうぜん紅彩館」で一風呂浴びて帰った。
川俣町と飯舘村の境にある花塚山(標高918.5メートル)も道中に大きな岩が多くて霊山と似ている感じがした。「富士山の見える北限の山」ということだが、7月中旬に登った時、私の視力では富士山を確認することはできなかった。冬場の方が見える可能性が高いそうだ。花塚山の全体の印象としては、尾根にたどり着くまでの傾斜がかなりきつい。下山後は自動車で南下して二本松市の名目津温泉で、パンパンになった太ももとふくらはぎをじっくりとケアしてから引き上げた。
ちょっと遠いので滅多に行けないが、会津地方に出張に行った際にふらりと立ち寄った会津藩主松平家墓所も良かった。旅先で急に思い立ったのでクマ鈴がなかったが、なんと墓所の入り口にクマ鈴が何個も置いてある。ありがたくお借りし、お墓までの急な山道を20分ほど登っていく。会津のお殿様たちの眠る場所なので荘厳な雰囲気があり、故人の業績を刻んだ碑石の台座「亀趺坐」を一度は見てほしい。少し前を団体で歩いている人たちが「あ、ここにもガメラがいた!」なんて大きな声を出しているのが聞こえてきたので、近くに行ってみると、確かに「ガメラ」のような亀の形をした台座がいくつもあった。
帰り際にクマ鈴を返却したら、すぐ近くの東山温泉に行くもよし、会津若松駅近くにあるサウナ付きの日帰り入浴施設で汗を流すのもよしだ。時間がたっぷりある人は、JR只見線で奥会津に入って、早戸温泉の露天風呂から只見川の眺めを楽しんでみてはどうだろう。墓所の近くにある白虎隊で有名な飯盛山には観光地らしく立ったまま登っていける動くスロープが整備されている。もちろんそれに乗ってもいいし、あえて階段を上ってもいい。今度行った時は動くスロープではなく階段を歩いてみよう。結構な運動になるはずだから。
福島暮らし2年目。中通りと会津でほんの一部ながら、お気に入りの山歩きコースを見つけることができた。ただし、体重はそんなに減らない。夏真っ盛りの今はそんなに長くは歩けないが、少し涼しくなったら、今度は浜通りで面白いコースを探してみようと思っている。



