物価高が長引く中で、労働者の賃金を底上げすることは極めて重要だ。特に最低賃金は正規・非正規を問わず全ての労働者に適用される賃金のベースであり、その引き上げは家計を支えるだけでなく、労働者の格差是正にも寄与する。しかし、中小企業の経営実態を無視した急激な引き上げは、雇い控えや廃業を招く恐れがある。価格転嫁の対策を求める中小企業の声に耳を傾けながら、着実に賃上げを進めていく必要がある。
最低賃金決定の仕組みと政府目標の変遷
最低賃金は毎年夏に厚生労働省の審議会で労使代表と学識者の3者が引き上げ幅の目安を決め、それを基に都道府県の審議会が改定額を定める。コロナ禍以降、物価高が深刻化し、最低賃金を巡る議論は政府主導の色を強めた。岸田政権は2023年に「30年代半ばまでに1500円」との目標を掲げ、石破政権は24年に「20年代に全国平均1500円」へと前倒しした。この政府の後押しもあり、過去最大の伸びが5年連続で続いた。
25年度の最低賃金は全国平均で前年度比66円増の1121円となり、過去最高を更新。全都道府県で初めて1000円を超え、底上げが進んだことは評価できる。しかし、大幅な引き上げが続く中で中小企業側に不満が蓄積され、コスト上昇分を価格に転嫁できないため賃上げが経営を圧迫し、雇い控えや廃業を招く懸念が強まった。
中小企業への配慮と異例の適用遅延
25年度は賃上げ余力が乏しい事業者に配慮し、例年の10月よりも最低賃金の適用を遅らせる自治体が相次いだ。秋田県など6県では越年して適用する異例の事態となった。高市政権は近くまとめる「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」で、1500円の達成時期を「遅くとも30年代前半のできる限り早期」と事実上先送りする方針だ。これは中小企業の実情に目配りした判断と言える。
最低賃金の議論では、物価高を踏まえた生計費、春闘賃上げ率、中小企業の収益性などが勘案される。今年度は政府の物価対策もあって消費者物価指数の上昇率が大きく低下し、近年とは議論の土台が変わったとの見方もある。審議会は7月下旬をめどに最低賃金の目安を示す見通しで、新たな達成目標を見据え、労使が納得できる着地点を見つけるための丁寧な議論が求められる。
今後の課題と政府の役割
政府側には、中小企業が大手との取引で人件費などコスト上昇分を取引価格に転嫁できるよう監視を徹底することが求められる。最低賃金の引き上げは労働者の生活を守る重要な施策だが、中小企業の持続可能性を損なわないよう、バランスの取れた対応が必要だ。物価高が長期化する中、賃上げと価格転嫁の好循環を実現するための政策努力が今後も続く。



