7月4日、香港船籍の超大型原油タンカー(VLCC)「ロングウインド号」がペルシャ湾内で錨を上げ、ホルムズ海峡を抜けて韓国のオンサン港に向かった。同号はペルシャ湾内に足止めされていた最後の中国系VLCCであり、湾内を航行または停泊している中国系VLCCはこれでゼロになった。
オマーン湾の“水上原油マーケット”
ところが、ホルムズ海峡の出口にあたるオマーン湾には対照的な光景が出現していた。中国のエネルギー海運大手の中遠海運能源運輸(コスコ・シッピング・エナジー・トランスポーテーション)や招商局能源運輸(チャイナ・マーチャンツ・エナジー・シッピング)などが運航するVLCCが、一斉に集結していたのだ。
これらのタンカーは、フジャイラ港の錨地で「瀬取り」を行い、原油を積み替えている。この“水上原油マーケット”は、国際的な制裁や規制を回避するために急速に拡大しており、いわゆる「影のタンカー船団」と呼ばれるようになった。
秘密作戦に賭けたUAE
この影の船団の急拡大には、アラブ首長国連邦(UAE)の秘密作戦が関与しているとみられる。UAEはフジャイラ港を拠点に、制裁対象国の原油を積んだタンカーに対して、船籍や積み荷の偽装などのサービスを提供しているという。関係者によれば、UAE当局はこの作戦を黙認しており、同国にとって重要な収入源となっている。
さらに、謎の韓国海運会社がこの影の船団に深く関与していることが判明した。同社は小規模ながら、複数のVLCCを運用し、イランやベネズエラからの原油輸送を請け負っている。同社の名前は公には出ていないが、業界関係者の間では「シノコー」と「MSC」というコードネームで呼ばれている。
6月の輸出量は過去最高
この影の船団の活動により、イランからの原油輸出量は6月に過去最高を記録した。国際エネルギー機関(IEA)のデータによると、6月のイラン原油輸出量は日量約150万バレルに達し、前年同月比で約30%増加した。これは、アメリカの制裁が強化される中での驚異的な数字である。
専門家は、この影の船団が世界のエネルギー市場に与える影響は計り知れないと指摘する。制裁違反の原油が市場に流入することで、原油価格の低迷を招き、産油国の収入を不安定にする可能性がある。
開戦直前にタンカーを“爆買い”
さらに注目すべきは、イスラエルとヒズボラの紛争が激化する直前、複数の影のタンカーが一斉にタンカーを購入したことだ。業界筋によると、これらのタンカーは開戦の数週間前に、中古タンカー市場で「爆買い」を行い、価格を押し上げた。この動きは、紛争による原油供給の混乱を見越した投機的な動きとみられる。
シノコーとMSCは、これらの取引で莫大な利益を上げているとされる。両社は、制裁対象国から割安で原油を購入し、影の船団を使って国際市場に流すことで、通常の取引よりも高いマージンを得ている。
この影の船団の拡大は、国際秩序の激動を象徴する出来事であり、ホルムズ海峡の安全保障にも深刻な影響を及ぼしている。米海軍第5艦隊は監視を強化しているが、影の船団の活動を完全に阻止することは困難とみられる。



