インドでトランスジェンダーの人たちの権利保護法が改正され、これまで広く認められてきた性自認に基づく定義が削除された。新たな定義では、生まれつきの身体的特徴を持つ人や、伝統的な「ヒジュラ」と呼ばれる集団などに対象が限定された。当事者や人権団体は、国家が保護の対象を選別しているとして強く反発している。
改正法の内容と背景
2026年3月に成立した改正法では、2019年のトランスジェンダー権利保護法にあった「出生時に割り当てられた性別と性自認が一致しない人を指す」との定義が削除された。代わりに、生まれつき体の性分化に特徴がある人や、男性でも女性でもない存在とされ、結婚式や出産時に歌や踊りで祝福する「ヒジュラ」と呼ばれる集団など、限定的な対象に変更された。
インドでいう「トランスジェンダー」は、公衆衛生政策で男女の区分に収まらない人たちを把握する行政上の概念として使われ、法制度にも引き継がれてきた。日本で一般に理解される意味とは必ずしも重ならない点に注意が必要だ。
最高裁判決からの流れ
インドでは2014年、最高裁が画期的な判決を出した。誰もが自認する性に基づいて法的承認を求める権利を持つとし、トランスジェンダーの人たちが求めた「第3の性」の法的地位を認めた。これは男女の二元的な制度からこぼれ落ちてきた人たちを法の中で可視化する判断だった。
弱者支援にかかわる公的機関(NALSA)が訴訟を起こし、ヒジュラの当事者らも参加した。彼らは男性、女性以外の性自認が法的に認められず、教育や医療などで差別を受けていると訴えていた。この判決を受け、公的書類の性別欄には男性、女性、トランスジェンダーの三つの選択肢が設けられた。2019年の権利保護法にも、自己認識に基づく定義が盛り込まれていた。
批判と今後の影響
今回の法改正について、当事者や人権団体は「国家が保護の対象を選別している」と批判している。特に、性自認に基づく定義を削除したことで、トランスジェンダー全体の権利が後退する恐れがあると懸念されている。改正法の理由について政府は詳細を明らかにしていないが、一部では多様性政策や「WOKE」と呼ばれる考え方の見直しの流れと関連づける声もある。
インドのトランスジェンダーコミュニティは、今後、法的承認や医療アクセス、雇用などで新たな困難に直面する可能性がある。国際人権団体もこの改正に懸念を示しており、今後の動向が注目される。



