入社早々に会社を辞める新人社員は、毎年話題になる。日本ビジネス心理学会副会長の匠英一氏は、「上司や人事部は、離職意向の社員にその理由を詳しく聞こうとするが、かえって離職の意志を固めることになってしまいかねない」と指摘する。
「辞める理由」ではなく「続ける理由」を育てる
なぜ新人は早期に離職してしまうのか。ここでは「辞める理由」ではなく「続ける理由」に注目し、その心理的背景を解説する。自己決定理論を手がかりに、自律性・有能感・関係性がどのように働く意欲を支えるのかを示し、職場でそれらを育てる実践的な視点を提示する。
人事部の田代は部下の林との人事戦略の会議で、仕事への期待と実際の業務とのずれ(リアリティショック)を解消できないで辞職する新人が多いことに気づく。新人は「自分らしさを求める」が、今の業務の中でその理想と現実の経験をつなぐ手がかりがつかめないというのだ。
田代と林も従来のやり方のように、辞める理由を問う方法には限界があると感じている。「仕事を続ける理由を、自分で育てる視点が弱いのではないかな」と田代が問いかけ、林は「重要なのは、最初から適職を与えることではなく、今の仕事の中で成長や貢献を実感できる場づくりでは?」と続ける。
「仕事を続ける」ための3つの条件
早期離職の背景には、「仕事が合わない」といった期待するキャリアとのギャップがある。そのためリアリティショックが起きて辞職してしまう。ここで重要になるのが、「自己決定理論」だ。この理論では、人が仕事を主体的に続けるためには、「自律性」「有能感」「関係性」という三つの基本的欲求がみたされることが前提とみなされる。
たとえば、上司や同僚との日常の関係性が弱いと「相談してもよい」という感覚が薄くなる。また、すぐに上司がその場で「なぜ辞めるのか」と問いただすのも逆効果になる恐れがある。確かに辞める理由自体を理解することは大事だが、それを本人がまだ確信がなく悩んでいる時に問うのは考えものだ。というのも、その時に辞める理由となるマイナス要因だけが焦点化され、ますます辞職への「焦点化バイアス」が働くからだ。
したがって、新人に「辞める理由」を問うよりも、まず「続ける理由」を部下と共に考えるようにすることを優先することが必要となる。



