肥満治療薬として世界的に注目を集めるマンジャロ(一般名:チルゼパチド)について、薬剤師の山﨑友樹氏がその効果と課題を解説する。同薬は2026年、世界で最も売れた医薬品としてトップに立ち、日本でも「ゼップバウンド」の製品名で肥満症に適応承認されている。しかし、服用をやめると体重が戻るという「リバウンド」現象が大きな問題となっており、患者はやめたくてもやめられない切実な事情を抱えている。
世界で最も売れた薬の実態
マンジャロは、GIP(グルコース依存性インスリン分泌促進ポリペプチド)とGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)の両方の受容体を活性化する初のデュアルアゴニストとして開発された。2022年に米国で2型糖尿病治療薬として承認され、その後肥満症治療にも適応が拡大。2026年の医薬品売上ランキング「Pharma 50」で、それまで首位だったキイトルーダ(免疫チェックポイント阻害薬)を抜いてトップに立った。日本では2025年に肥満症治療薬として承認され、2026年には厚生労働省が最適使用推進ガイドラインを策定するなど、その普及が進んでいる。
劇的な減量効果とリバウンドのジレンマ
NEJMに掲載されたSURMOUNT-1試験(Jastreboff AM, et al., 2022)では、チルゼパチド投与群で最大22.5%の体重減少が確認され、プラセボ群の2.4%を大きく上回った。しかし、JAMA Internal Medicineに掲載されたHorn DBらの研究(2026)では、チルゼパチドを中止した患者の多くが体重を再増加させ、特に中止後1年で元の体重の約70%まで戻るケースが報告されている。山﨑氏は「患者は劇的な減量効果を体験するが、薬をやめると食欲抑制効果がなくなり、元の食習慣に戻ってしまう。そのため、多くの患者が継続服用を望むが、費用や副作用の懸念から葛藤する」と指摘する。
副作用と安全性の課題
Gastroenterology誌に掲載されたChiang CHらの研究(2025)では、GLP-1受容体作動薬と消化器系副作用の関連が指摘され、チルゼパチドでも吐き気、嘔吐、下痢などの消化器症状が高頻度で発生する。また、甲状腺C細胞腫瘍のリスクが動物実験で確認されており、甲状腺髄様癌の既往歴がある患者には禁忌とされている。PMDA(医薬品医療機器総合機構)は副作用救済制度を設けているが、長期使用による影響についてはまだデータが十分でない。
やめられない患者の心理と社会的影響
山﨑氏は「患者は薬をやめることへの恐怖を感じている。特に、減量に成功した後の自己イメージや健康状態を維持したいという強い願望がある」と語る。また、肥満治療薬としての需要は美容目的も含めて高まり、SNSなどで「やせ薬」として話題になる一方、医療用医薬品の適正使用を逸脱する懸念も指摘されている。厚生労働省は2025年、GLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬の適正使用に関する通知を発出し、医師による適切な処方と患者指導を求めている。
将来の治療薬と展望
Lancetに掲載されたTRANSCEND-T2D-1試験(Bajaj HS, et al., 2026)では、トリプルアゴニストであるレタトルチドの有効性と安全性が報告され、さらに強力な減量効果が期待されている。しかし、山﨑氏は「新薬が登場しても、根本的な生活習慣の改善なしにはリバウンドの問題は解決しない。薬剤師として、患者の生活スタイルに合わせた継続可能な治療計画を提案することが重要だ」と強調する。マンジャロは肥満治療に革命をもたらしたが、その功罪はまだ評価の途上にある。



