国連ミレニアム宣言の夢と現実
2000年、国連のミレニアム宣言は「2015年までに世界で収入が1日1ドル未満の人々の割合を半減させる」など、貧困撲滅に向けた野心的な目標を掲げた。しかし、その幻想は崩れ去った。神奈川大学名誉教授の的場昭弘氏は、この失敗の背景に世界経済の大転換があると指摘する。
フリードマンとサックスの楽観論
当時、トーマス・フリードマンの『フラット化する世界』(日本経済新聞社、2006年)やジェフリー・サックスの『貧困の終焉』(早川書房、2008年)が話題を呼んだ。フリードマンはグローバリゼーション3.0が世界をフラット化し、貧困を解消すると主張。「フラットな世界のあらゆる国々個人が力を持ち始めている」と述べた。一方、サックスはバングラデシュの縫製工場を例に、海外資本の投資が雇用を生み、貧困を減らすと説いた。彼は「正しい戦略と資本投入で前進できる」と断言し、低賃金労働への批判に対しては「安全な労働環境のもとで仕事を増やすべきだ」と反論した。
誤算と現実
しかし、的場氏はこれらの楽観論が現実を読み切れていなかったと指摘する。グローバリゼーションは確かに新興国に雇用をもたらしたが、同時に先進国内での貧困を深刻化させた。資本の流れは一方的で、サプライチェーンの恩恵は偏在した。国連の目標は未達成に終わり、世界の貧困率は依然として高い水準にある。特に先進国では、非正規雇用の増加や社会格差の拡大が新たな貧困層を生み出している。
貧困問題の本質
的場氏は、貧困の原因を単なる資本不足に求めるサックスの仮説が不十分だったと批判する。実際には、資本の流入が利益を生む一方で、労働搾取や環境破壊を引き起こし、長期的な貧困解決にはつながらなかった。また、フリードマンの「フラット化」論も、実際には世界の非対称性を無視していた。的場氏は「貧困は消えるという幻想は、グローバリゼーションの負の側面を見落とした結果だ」と結論づける。
今後の課題
国連の持続可能な開発目標(SDGs)は貧困撲滅を再掲するが、的場氏はその実現にはより現実的なアプローチが必要だと訴える。具体的には、国際的な所得再分配や、労働条件の国際的基準の強化、環境と調和した経済成長が求められる。また、先進国自身の国内貧困にも目を向けるべきだという。



