電気自動車(EV)シフトの加速を背景に、中国の電池大手CATL(寧徳時代新能源科技)は世界市場で圧倒的な存在感を示している。しかし、その足元では供給過剰や地政学リスク、次世代電池技術の台頭など、いくつかの死角が浮かび上がっている。CATLは2023年の世界シェアで約37%を占めるトップランナーだが、業界関係者は「このまま安泰とは言えない」と指摘する。
供給過剰と価格競争の激化
CATLは2023年に売上高約4000億元(約8兆円)を記録、前年比で20%超の成長を見せた。しかし、中国国内ではEV販売の伸びが鈍化し、電池メーカー各社が増産体制を敷いた結果、供給過剰感が強まっている。業界団体のデータによれば、2023年の中国電池生産能力は需要を約30%上回ったという。このため、CATLも価格引き下げを余儀なくされており、2023年後半には一部製品で10%以上の値下げが行われた。
さらに、競合のBYD(比亜迪)や中創新航(CALB)などが低価格帯で攻勢を強めている。BYDは自社製電池「ブレードバッテリー」を搭載したEVでコスト競争力を高め、CATLの牙城を崩しつつある。CATLの創業者である曾毓群会長は「価格競争は避けられないが、品質と技術で差別化する」と述べている。
地政学リスクと市場依存
CATLのもう一つの死角は地政学リスクだ。同社は世界のリチウムイオン電池生産の約3分の1を占めるが、その生産拠点のほとんどが中国にある。米国や欧州連合(EU)は、中国への依存を減らすため、自国内での電池生産を促進する政策を打ち出している。米国のインフレ抑制法(IRA)では、中国製部品を使用したEVは税制優遇の対象外となる可能性があり、CATLの米国市場へのアクセスが制限される恐れがある。
また、欧州でも中国製電池への関税引き上げが検討されており、CATLはドイツやハンガリーに工場を建設中だが、現地生産の立ち上げには時間がかかる。調査会社のアナリストは「地政学的な緊張が高まれば、CATLのグローバル戦略に大きな影響が出る」と警告する。
次世代電池技術への対応
さらに、全固体電池など次世代技術の開発競争もCATLにとって脅威だ。トヨタ自動車や日産自動車、韓国のLGエナジーソリューションなどが全固体電池の実用化を目指しており、2020年代後半には市場投入が予想される。CATLも全固体電池の研究を進めているが、量産化には課題が残る。
一方で、CATLはリン酸鉄リチウム(LFP)電池で強みを持ち、2023年には航続距離1000kmを超える新型電池「麒麟(Qilin)」を発表した。しかし、技術の陳腐化リスクは常に付きまとう。投資家の間では「CATLの現在の優位性が、次世代技術でひっくり返される可能性がある」との見方も出ている。
業績は堅調も、投資家は警戒
2024年第1四半期のCATLの純利益は前年同期比で約7%増の100億元超と堅調だが、市場の期待には届かなかった。同社の株価は2023年後半から調整局面に入っており、時価総額はピーク時から約20%減少している。投資家の間では、供給過剰と地政学リスクが業績に与える影響を注視する声が強まっている。
CATLは、研究開発費を売上高の約5%に維持し、次世代技術への投資を継続する方針だ。また、海外市場でのプレゼンス拡大のため、インドネシアやタイなどでの生産拠点設立も進めている。しかし、市場環境の変化は早く、同社が死角を克服できるかどうかは予断を許さない。



