「とりあえずアパート経営」が危険な理由:相続税対策と不動産経営の本質的違い
「とりあえずアパート経営」が危険な理由:相続税対策と不動産経営の違い

相続税対策としてのアパート建築、その落とし穴

「相続税対策になるので、賃貸アパート・マンションを建てませんか?」――土地をお持ちの方であれば、一度は耳にしたことがある言葉だろう。確かに、アパート建築によって相続税評価額が下がる場合があり、賃貸収入が得られる可能性もある。しかし、不動産の実務に長年携わってきた経験から申し上げると、「相続税対策としては成功したが、不動産経営としては失敗した」というケースは決して少なくない。今回は、「とりあえずアパート経営」がなぜ危険なのか、その本質を整理する。

節税できても、儲かるとは限らない

アパート経営が提案される理由は、構造的に理解しやすいものだ。相続税評価額の引き下げ、借入金の相続財産控除、そして継続的な家賃収入の確保――これら三点が組み合わさり、「土地を持っているなら建てた方が有利」という判断につながる。

しかし、ここで見落とされがちな前提がある。それは、「相続税対策と不動産経営は、本来まったく別の問題である」という事実だ。仮に相続税を数百万円圧縮できたとしても、その後の経営が「空室の常態化」「継続的な家賃下落」「予期せぬ修繕費の発生」といった状況に陥れば、何十年にもわたって損失を積み重ねることになる。根本的な非対称性がここにある。相続税は一度きりのイベントだが、アパート経営は20年、30年と続く長期事業である。「相続税がいくら下がるか」よりも「事業として長期にわたり成立するか」という視点こそが、本質的な問いだ。

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建築会社とオーナーでは、利害構造が異なる

土地活用の提案を受ける際、忘れてはならないのが「提案者とオーナーの利害構造の違い」だ。建築会社にとっての事業目的は「建物を建てること」である。一方、オーナーにとっての目的は「長期的に収益を確保し、資産を次世代に引き継ぐこと」だ。もちろん、誠実な提案を行う会社も多く存在する。しかし構造的に、「建てること」と「経営が成功すること」は必ずしも一致しない。提案を受ける側が自ら、事業としての妥当性を検証する姿勢を持つことが不可欠である。

「満室前提」の収支計画を疑う

提案書に盛り込まれる収支計画は、多くの場合、満室稼働を前提に試算されている。しかし現実の賃貸経営では、空室損失、家賃下落、入居者の入替コスト(リフォーム費、仲介手数料等)が必然的に発生する。特に、人口減少が進む地域では、新築時は満室でも10年後・20年後に同じ状況が維持される保証はない。不動産経営における経営力の真価は、「良いときの収支」ではなく「悪いときでも耐えられるキャッシュフロー構造になっているか」に表れる。

収益不動産の成否を決めるのは「需要」である

建物のグレードや設備仕様ではなく、エリアの賃貸需要こそが、収益不動産の根本的な価値を規定する。その地域に借り手が存在するか、将来にわたって需要が持続するか、周辺の競合物件との差別化が可能か――こうした市場検証を経ずに建築に踏み切ることは、大きなリスクをはらむ。アパート経営は「建築事業」ではなく「賃貸事業」だ。まず問うべきは建物の仕様ではなく、市場の実態である。

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相続対策の本質は「税金を減らすこと」ではない

「相続対策」という言葉を耳にすると、税負担の軽減に意識が向きがちだ。しかし本来の目的は、収益が安定した状態で、管理負担が適切に管理され、将来にわたって需要が見込める資産を、次世代へ円滑に引き継ぐことにある。その観点から見れば、場合によっては「アパートを建てる」よりも「売却して現金化する」「定期借地権を設定する」「既存建物をリノベーションする」といった選択肢の方が、総合的に合理性が高いケースも少なくない。

まとめ:冷静な判断が真の相続対策

アパート経営そのものを否定するわけではない。立地と需要に恵まれ、安定した収益を長期にわたって生み出している物件は確かに存在する。しかし、「相続税が下がるから」「土地が余っているから」「建築会社に勧められたから」という消極的な理由だけで意思決定するのは危険だ。不動産経営は節税商品ではない。長期間にわたり収益を生み出す事業である。だからこそ、建物を建てる前に「その土地に本当に需要があるか」「20年後も事業として成立するか」を冷静に見極めることが、真の相続対策の第一歩になる。

次回は、「相続不動産は“管理”で価値が変わる」をテーマに、同じ不動産でも管理の質によって収益力と資産価値が大きく分岐する理由を解説する。不動産は、持つことよりも管理することの方が難しい――その現実を深掘りする。

(文:佐嘉田 英樹/アテナ・パートナーズ株式会社 代表取締役)