楽天、楽天テクノロジーズ(CTC)、電通グループ、電通総研の4社は8月31日、ITサービスとリテールメディア領域における戦略的提携を発表した。
楽天グループは、同社グループ傘下の合併会社VICを通じて、電通総研に対する株式公開買い付け(TOB)を実施する。電通グループが約62%の株式を保有して親会社にとどまりつつ、楽天グループが最大2152億円を投じ、約38%を出資する。
「出来の悪い生徒」として学ぶ姿勢
同日の記者説明会には、4社の経営陣が登壇。楽天の細見社長(常務執行役員 第8カンパニープレジデント)からは、今回の戦略的提携の狙いについて「われわれは『出来の悪い生徒』としてしっかり教えていただきたい」というコメントが飛び出した。
戦略的提携の狙いと、経営陣が語った「今回の提携による具体的な相乗効果」「100%完全子会社化しなかった背景」などについて、一問一答形式で紹介する。
電通総研の歴史と位置づけ
電通総研は1975年、電通と米ゼネラル・エレクトリック(GE)の合弁会社として設立。2000年の東証一部上場を経て、独立系SIerとして成長してきた。電通総研の銀本社長は、今回の提携を「設立時が第1の創業、東証一部への上場を第2の創業とするならば、生き残りをかけた2025年からの変革期である第3の創業を確かなものにする施策」と位置付ける。
ITサービス領域では、CTCと電通総研が業務提携契約を締結する予定だ。
電通総研は製造業や金融業を中心とした顧客基盤を有しており、ビジネス部門(LOB)向けの戦略・業務コンサルティングやアプリケーション開発、パッケージ導入の知見を持つ。CTCは通信キャリアや流通業を中心とする顧客基盤を背景に、IT部門を支える大規模システム、クラウド、ネットワーク、セキュリティなどのインフラ構築・保守運用に強みがある。
両社のクロスセル(相互送客・一体提案)を推進することで、アプリケーションからインフラ基盤、保守運用までの一気通貫支援を実現する。
リテールメディアとデータ領域での取り組み
リテールメディアとデータ領域では、楽天グループのゲート・ワン(東京都港区)、データ・ワン(東京都世田谷区)と電通の3社が業務提携を締結した。電通の持つ生活者理解、企画力、クリエイティビティ、広告主への提案力を掛け合わせ、サイネージの商品力向上や購買データを活用したデジタル広告・分析サービス、3社共同での提案を展開し、国内リテールメディア市場そのものを拡大していく狙いだ。
楽天の細見社長は、今回の提携による具体的な相乗効果について「電通総研とCTCを含むデジタル事業群全体での協業により、5年後に売上高で500億円以上の新たな取引創出は十分に可能と見込んでいる。加えて、フィジカルAIやサイバーセキュリティ領域での共同プロダクト開発、アジアを中心とした海外展開の連携も進める」と述べた。
リテールメディアの市場拡大と今後の課題
電通グループの明石氏(常務執行役員)は「リテールメディアは電通グループにとっても大きな成長領域の一つだ。購買データや店頭ネットワークを活用したサービスを今回の提携を通じて高度化していきたいと考えている。ただし、日本のリテールメディアは仕様が各社バラバラで、発展途上にある。提携を通じた高度化はもちろん、まずは市場全体の拡大が極めて重要だと認識している」と語った。
楽天の細見社長は「ここ5年ほどファミリーマートを中心にリテールメディアを展開してきた。売り上げは想定以上に推移しており、非常に大きな成長の可能性を感じている。しかし現状は各社が独自にバラバラに取り組んでいる状態であり、業界全体での標準化や指標作りはこれからだ。また、私たち自身参入してまだ5年程度であり、広告業界そのものに対する知見が浅いのも事実である。日本ナンバーワンの実績と展開力を持つ電通を『先生』とし、われわれは『出来の悪い生徒』としてしっかり教えていただきたい」と述べた。
CTCを中心としたデジタルバリューチェーンを見ると、戦略・業務コンサルティング領域には米Boston Consulting Group(BCG)とのジョイント・ベンチャー(JV)などが存在する。電通総研との棲み分けや重複をどう整理するのかについて、細見社長は「電通総研の最大の強みは製造業や金融業への深い業務知見だ。AIによって開発作業そのものが自動化・縮小していく中で、最後に最も強い差別化要素となるのは『顧客の業務知見があるかどうか』である。この深い業務知見を担うコンサルティング領域は楽天グループ内で手薄だった部分であり、電通総研が加わることに意味がある」と説明した。
楽天側にとっては、62%対38%という出資比率はマイノリティ出資となる。過半数を握らずマイノリティーにとどまることがベストなのかという質問に対し、細見社長は「電通側がマジョリティを維持する方針であることは最初から聞いていた。それを踏まえた上で、当社としてはマイノリティーという立場であっても、ITサービスとリテールメディアという2つの注力領域で十分強固な協業が可能であると判断した。現時点で出資比率の引き上げなどは全く考えていない」と述べた。
なぜ完全子会社化を選ばなかったのかについて、電通グループの明石氏は「電通グループ内でも、電通総研の資本政策については過去2年半以上にわたり議論を重ねてきた。その選択肢の中には当然、100%完全子会社化という案も含まれていた。しかし、電通総研は電通グループの成長センターであり中核企業である。国内のAI開発機能も電通総研にリソースを集中させており、電通グループの連結子会社という位置付けは揺るがなかった」と語った。
グローバル事業でのシナジーについてアジア中心という話があったが、楽天の海外ネットワークを活用して具体的にどのように広げていく構想があるのかという質問には、明石氏が「現段階では全くの白紙だ。電通グループの事業の約6割は海外展開しており、楽天もグローバルネットワークを持っているので、将来的な協業の可能性は大いにあると考えている。しかしながら、現段階ではまず電通総研の国内ITサービスのドメインの強化や、楽天と進めるリテールメディア事業の確立が最優先課題だ。これらが進捗した次のステップとして海外展開も具体的に検討していく」と答えた。



