税理士でマネージャーナリストの板倉京氏は、著書『女税理士が教える 女性のための自分の資産のつくり方』(BOW BOOKS)において、「扶養から外れると損をする」という通説を覆す衝撃的な試算を発表した。フルタイムで働き続ける女性と、扶養内に抑えてパートで働く女性とでは、生涯の世帯収入に約1.6億円もの差が生じるという。
「扶養の壁」に縛られる現実
野村総合研究所の調査によると、パートで働く既婚女性の56.7%が「年収の壁を意識して働き方を調整している」と回答。さらに、そのうちの67.4%が「本当はもっと働きたい」と答えている。板倉氏は、「働きたいのに働かない」という矛盾が、扶養制度に対する誤った認識から生じていると指摘する。
多くの女性は、年収103万円、106万円、130万円といった「壁」を超えると、社会保険料の負担や配偶者手当の喪失により手取りが減ると考え、労働時間を調整している。しかし、板倉氏は「月1~2万円の短期的な損得にとらわれることで、長期的なキャリア形成や年金受給額に大きな損失を生んでいる」と警鐘を鳴らす。
具体的な試算:フルタイムvs扶養内パート
板倉氏は、以下の2つのケースを想定し、生涯の世帯収入を試算した。
- ケースA(フルタイム):女性が正社員として年間収入400万円で60歳まで働き続ける。
- ケースB(扶養内パート):女性が年収130万円以内のパートで働き、夫の扶養に入る。
試算の結果、ケースAの生涯世帯収入は約3.2億円、ケースBは約1.6億円となり、その差は実に1.6億円に上る。この差は、主に以下の要因から生じる。
- 直接的な収入差:フルタイムの方が月収が高い。
- 年金受給額の差:フルタイムの方が厚生年金の加入期間が長く、受給額が増える。
- キャリア形成の差:フルタイムはスキルアップや昇進の機会が多く、長期的な収入増につながる。
「扶養のトク」の実態
板倉氏は、「扶養から外れると損」という考え方の背景には、短期的な手取りの減少に対する過剰な恐れがあると分析する。確かに、年収の壁を超えた直後は社会保険料の負担が発生し、手取りが一時的に減る場合がある。しかし、それはあくまで短期的な現象であり、長期的に見ればフルタイムで働くことのメリットがはるかに大きい。
「月に1~2万円の手取り減を気にするあまり、生涯で1億円以上の収入を失っている可能性がある。扶養の壁は、女性のキャリアと資産形成を阻む最大の障壁の一つだ」と板倉氏は強調する。
制度の変化と今後の働き方
2022年10月から、従業員101人以上の企業で働くパート・アルバイトにも社会保険の適用が拡大された。これにより、年収106万円以上のパート労働者は厚生年金に加入する必要が生じ、手取りが減るケースも出ている。しかし、板倉氏は「厚生年金に加入することで将来の年金受給額が増えるため、長期的には得になる場合が多い」と説明する。
また、配偶者手当を廃止する企業も増えており、扶養の壁そのものが曖昧になりつつある。板倉氏は、「扶養に依存するのではなく、自分の収入とキャリアを主体的に設計することが重要だ」とアドバイスする。
「本当はもっと働きたい」女性たちへ
板倉氏は、著書の中で「扶養から外れると損」という固定観念を捨て、長期的な視点で働き方を選ぶよう呼びかけている。「フルタイムで働くことは、単に収入を増やすだけでなく、スキルアップや社会とのつながり、自己実現にもつながる。扶養の壁に惑わされず、自分らしいキャリアを築いてほしい」と締めくくっている。



