数十年にわたって赤字経営が続いた家業のスーパーを、わずか3年で黒字に転換させた女性がいる。新潟市のローカルスーパー「マスヤ味方店」店長で、株式会社マスヤの代表取締役社長を務める栗林礼奈さん(35)だ。「もともと店を継ぐ気はなくて……。むしろ逃げたかった」と振り返るが、紆余曲折を経て、今ではこの仕事を「天職」と言う。
Uターンと赤字の危機
新潟市出身の栗林さんは、曽祖父が創業した地元のスーパーで、粉骨砕身する両親の姿を見て育った。毎日早朝から夜遅くまで働き、休日も限られる生活に、「休みもお金ももらえるサラリーマンがいい」と大学進学を機に地元を離れた。
立命館大学卒業後、東京の人材サービス会社とITソフトウェア商社で営業職として7年間働いたが、心は揺らいだ。「私の強みはクリエイティブなところ。堅い営業が窮屈に感じた」と語る。海外で働こうと準備を進めていた2020年、コロナ禍が到来し、やむを得ず新潟に戻ることになった。
「都落ち感があった。肩書とか待遇とか、先入観で人を見ていた世界にいたから」。帰郷したマスヤ味方店は、近隣の大型スーパーとの競争で創業以来最大の赤字に陥っていた。
こだわり商品と情報発信で転換
栗林さんは「数年後どういうスーパーになりたいか」をスケッチブックに書き出し、「活気がある」「メディアに取材される」「おしゃれな人が来る」といった簡単な事業計画を作った。父の紹介で県内の小規模ながら集客力の高いスーパーに教えを請い、「高品質な商品をいかに販売するか」という手法を学んだ。
最初に販売したのは福島県の企業が手がける「食べるオリーブオイル」で、1か月で1000個以上売れた。問屋の提案や旅行先での発見からこだわり商品を次々に増やし、新聞の折り込みチラシは手書きでポップに。商品数は両面で10品程度に抑え、一つひとつを目立たせた。インスタグラムで情報発信し、価格競争とは一線を画した。
客層の変化と新店舗計画
経営の成長曲線は急上昇し、現在こだわり商品は売り上げの7割を占める。客層は近所の高齢者中心から30~60歳代へと変わり、2028年には隣地に移転して新店舗をオープンする計画だ。「新潟の食のテーマパークのような、スーパーの枠を超えるスーパーを目指したい」と夢を語る。
栗林さんは「仕事って、本当は肩書じゃなくて中身」と話し、マスヤで働き始めた頃にスケッチブックへ書いた目標は全て達成したという。仕事への熱量が生み出した成果だ。



