斎藤幸平、マルクスとの出会いで思想が180度転回――『ドイツ・イデオロギー』が変えた世界観
斎藤幸平、マルクスとの出会いで武士道信仰から転換

東京大学大学院准教授の斎藤幸平は、かつて『武士道』に傾倒し、日本の行き詰まりは日本人が本来の美徳を忘れ、アメリカに理想を投影したためだと考えていた。しかし、マルクスの『ドイツ・イデオロギー』を読んだことで、その思想は根底から覆された。

フォイエルバッハの疎外論

マルクスは同書の中で、ドイツの哲学者フォイエルバッハの疎外理論を批判している。フォイエルバッハは、人間は本来自由で普遍的な存在であり、理性や意志、愛といった優れた本質を持っているが、それを神という外部の存在に投影し、自らを無力で罪深い存在とみなすようになると指摘した。これが宗教における疎外である。

フォイエルバッハは、疎外を克服するには、人間が他者と結びつき「類的存在」に近づくべきだと主張。そのために、愛を通じて本来の力を取り戻し、意識を変えることで問題を解決できるとした。

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マルクスの批判

斎藤によれば、このフォイエルバッハの考えは、当時の自身の思考と非常に近かった。意識改革によって問題を解決しようとしていたからだ。しかし、マルクスはまったく異なる立場をとった。マルクスは、人間が神を生み出さずにはいられない原因は、現実の社会構造(システム)にあると主張。つまり、疎外は意識の問題ではなく、社会構造の問題だというのだ。

したがって、疎外を乗り越えるためには、意識を変えて世界を別様に解釈するだけでは不十分であり、システムそのものと、システムを生み出す人間の行動を変えなければならない。これが『ドイツ・イデオロギー』におけるマルクスのフォイエルバッハ批判だった。

斎藤の転換

この指摘は、斎藤の考えを根底から覆した。まさにコペルニクス的転回であり、世界の見え方が180度変わったという。マルクスの思想を通して見ると、経済格差や戦争、不平等といった問題がなぜ起こるのかがすっきりと理解できた。かつて「徳が失われたからだ」と思い込んでいた問題の根幹には、実際には資本主義という社会構造、そして世界で広がる新自由主義の存在があると気づかされた。

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