山陽新幹線の新神戸駅に直結しているにもかかわらず、客も店も集まらないショッピングモールがある。現在の「コトノハコ神戸」だ。バブル期にダイエーが465億円を投じた大型複合施設「新神戸オリエンタルシティ」の商業フロアとして開業した。いまではワンフロアが丸ごと空き区画となり、館内には白い壁に囲まれた通路が続く。なぜ駅直結の一等地が廃墟モール化してしまったのか。ライターの坪川うたさんが現地からリポートする。
低層階の商業施設は空き区画だらけ
兵庫県の新神戸駅は、神戸市営地下鉄西神・山手線と北神線のほか、山陽新幹線が通る新幹線停車駅である。それにもかかわらず、駅前に廃墟モールが存在する。「コトノハコ神戸」だ。
本連載における廃墟モールとは、開くことのないシャッター、むき出しのままの空き区画、撤退したテナントに散乱する備品、買い物や食事を楽しむ人が少なく、ショッピングモールとしての賑わいが感じられない状態を指す。
コトノハコ神戸は地下3階から地上3階の商業施設で、西館と東館で構成されている。地下3階にはダイエー運営のスーパーマーケット「グルメシティ」と、キャンドゥ運営の100円ショップ「ル・プリュ」が出店しており、近隣住民と見られる買い物客の姿がある。しかし5区画中3区画には店舗が入っておらず、白い壁に囲まれた通路では自分の足音のみが響いている。
エスカレーターを上ると異変が
メインの西館のエスカレーターを上ると、さらに異変に気づく。地下2階はエスカレーターの周りが壁で塞がれており、立ち入ることができない。地下1階も両側がシャッターで閉ざされている。フロアガイドを見ると、地下2階は西館も東館も「COMING SOON」と表記されている。地下1階は東館にレンタカー店と理容室があるのみで、西館はすべてオフィスとして使われている。つまりコトノハコ神戸の来訪客にとって、地下2階の丸ごとワンフロアと地下1階の大部分は存在しないも同然なのだ。
地上1階にたどり着くと、ようやくフロアに足を踏み入れられるが、白い壁に囲まれた迷路のような空間が広がる。クリニックやカフェがある程度で、ほとんどが空き区画である。2階にはインテリア店などがあるものの、やはり大部分が空き区画となっている。3階の一部には日本の古い街並みを感じさせる内装のレストランエリアが広がるが、店舗は歯抜け状態で、営業しているのは4店舗のみ。ほかのエリアにも飲食店やアパレル、物産店が出店しているが、半分ほどの区画が空いている。
館内を通り抜けたり、椅子に座って休んだりしている人はいても、ここを目的に訪れている人の姿は地下3階を除くとまばら。館内はエスカレーターのアナウンス音が聞こえる程度でしんとしており、ガラガラといった様相である。
「西日本一高い施設」としてオープン
コトノハコ神戸は、1989年に「新神戸オリエンタルシティ」として開業した。バブル絶頂期、ダイエーが総工費465億円を投じ、西日本一高いビルとして話題を集めた。地上36階、地下3階の超高層ビルで、低層部に商業施設、中高層部にホテル(オリエンタルホテル)とオフィスが入る複合施設だった。新幹線駅直結という立地の良さから、開業当初は多くのテナントが入居し、賑わいを見せた。
開業当初から問題を抱えていた
しかし、開業直後から問題が顕在化した。まず、新神戸駅は新幹線の停車駅ではあるが、のぞみの停車本数が少なく、利用客の多くは通過するだけだった。また、駅周辺は住宅地から離れており、徒歩圏の人口が少なかった。さらに、バブル崩壊の影響で経済が冷え込み、消費が低迷した。
テナントの撤退が相次ぎ、売り上げは開業当初の半分以下に落ち込んだ。1990年代後半には空き区画が目立ち始め、2000年代に入るとさらに加速。2010年には商業施設の名称を「コトノハコ神戸」に変更し、リニューアルを図ったが、効果は限定的だった。
約3分の2が空きテナントに
現在、コトノハコ神戸のテナント稼働率は約3分の1にまで落ち込んでいる。地下2階は全面空き、地下1階も大半が閉鎖、地上階も多くの区画がシャッターを下ろしている。かつては映画館や飲食店が集まったエリアも、今では閑散としている。館内を歩けば、閉店した店舗の看板や備品がそのまま残されている場所もあり、時間が止まったような感覚を覚える。
この状況を打開するため、運営会社はイベントスペースの提供や、低家賃でのテナント募集などを行っているが、抜本的な解決には至っていない。周辺には新たな商業施設も誕生しており、競争は激化する一方だ。
「一度あきられたら終わり」が現実に
ショッピングモール業界では、「一度客にあきられると、再び注目を集めるのは難しい」と言われる。コトノハコ神戸は、バブル期の華やかな記憶を残しつつも、時代の変化に対応できず、客足が遠のいた。駅直結という好立地が、むしろ通過点としての役割に甘んじ、目的地としての魅力を欠いたことが最大の誤算だった。
現在も新神戸駅を利用する観光客やビジネス客は多いが、彼らは駅から直接タクシーやバスで目的地へ向かい、コトノハコ神戸に立ち寄ることはほとんどない。施設側はこの流れを変えようと、新たなテナント誘致やイベント開催に努めているが、空き区画の多さがネックとなり、大きな成果は上がっていない。
廃墟モールと化したコトノハコ神戸。その姿は、バブル経済の狂騒とその後の長期低迷を象徴するかのようだ。



