「相続税対策になるので、土地にアパートを建てた方がいいと言われました」。土地を所有する人から、このような相談を受けることがある。不動産は相続税対策の代表的な手法とされ、現金を不動産に換えたり、土地に賃貸住宅を建てたりすることで、要件を満たせば相続税評価額を引き下げられる場合がある。
しかし、相続税を減らすことができれば、その対策は成功なのだろうか。アテナ・パートナーズ株式会社の佐嘉田英樹代表取締役は、必ずしもそうではないと考える。銀行融資、建築・設計、税務の専門家の意見をすり合わせながら数多くの相続案件を見てきた実務経験から、そう申し上げている。
なぜ不動産が相続税対策になるのか
現預金は、原則としてその金額がそのまま相続税評価額になる。一方、土地は路線価方式や倍率方式、建物は固定資産税評価額を基礎に評価されるため、市場価格との間に差が生じる。さらに賃貸している場合には一定の評価減が、借入金が残っていれば債務控除が適用されることもある。こうした仕組みを組み合わせることで、現金保有時に比べ、課税対象となる財産の評価額を圧縮できる場合がある。
「1,000万円節税できた」だけでは判断できない。例えば、相続税を1,000万円減らすために多額の借入をして賃貸住宅を建築したとしよう。相続時点では税負担を軽減できたかもしれない。しかしその後、家賃が想定を下回る、空室が増える、金利が上昇する、修繕費がかさむ、建物価値が下がるといったことが起これば、経営で2,000万円、3,000万円の損失が生じることもある。税額だけでなく、相続後まで含めた資産全体を見る必要がある。
相続税は一時点、不動産経営は何十年も続く
相続税は、相続発生時点で課される税金だ。一方、賃貸不動産の経営は20年、30年、時にそれ以上続き、それを引き継ぐのは子どもたちである。「相続税を減らしてあげたい」という親の善意が、子どもにとっては「多額の借入と老朽化した建物を引き継いだ」という結果になることもある。だからこそ、相続が発生する瞬間だけでなく、その後の20年、30年を見ることが重要だ。
不動産を使った相続税対策では、少なくとも次の4点を確認したいところだ。
不動産による相続税対策の前に確認したいポイント
「相続税対策」ではなく「資産承継」として考える。相続対策の目的は、相続税の最小化だけではない。現金を残すのか不動産を残すのか、現在の土地を活用するのか売却するのか、賃貸住宅を建てるのかそれ以外の方法を選ぶのか。複数の選択肢を、税務・金融・建築・出口戦略、そして家族の考え方まで一つの軸でつなぐ、総合的かつ専門的な視点で比較検討することが重要だ。場合によっては、税金を多少多く払ってでも、換金性が高く管理しやすい資産を残す方が、家族にとって良い選択になることさえある。
節税額ではなく「相続後の家族」を見る。不動産には相続税負担を軽減する効果が期待できる場合がある。だからといって「相続税が下がる=良い不動産活用」ではない。見るべきは、税金、収益性、借入、将来の修繕、資産価値、そして次世代の意向である。これらを総合的に検討して初めて、その活用が本当に家族のためになるのかを判断できる。そのためには、税理士、金融機関、建築士など各専門家をまとめ上げ、一貫したマネジメントのもとで伴走する体制が欠かせない。
相続税対策のゴールは、「税金をいくら減らしたか」ではなく、次の世代にどのような資産を、どのような状態で引き継ぐことができたかである。そこまで考えてこそ、本当の意味での相続対策と言えるのではないだろうか。
次回は、相続税対策として代表的な選択肢である賃貸住宅に焦点を当て、「“節税アパート”が失敗する理由」をテーマに、税務上のメリットがあっても賃貸経営として失敗してしまうのはなぜなのか、その典型的なパターンを具体的に考えていく。



