2025年、世界で最も売れた医薬品は、糖尿病・肥満症治療薬「マンジャロ」(一般名:チルゼパチド)だった。しかし、その陰で美容目的のダイエット使用が急増し、2026年6月には厚生労働省が適正使用通知を発出する事態に発展。薬剤師の山﨑友樹氏は「魔法の薬」と称される一方で、やめた後のリバウンドや副作用のリスクを指摘する。
世界一の売上と急拡大する需要
マンジャロを含むチルゼパチドの2025年通期売上高は約365億ドルに達し、四半期成長率は100%超を維持。成分ベースで世界トップの医薬品となった。日本でも需要が急拡大し、保険診療の対象外である美容ダイエット目的の患者が自由診療やオンライン診療に殺到。美容外科、皮膚科、オンライン専業クリニックなど数百の医療機関が処方を掲げ、激しいマーケティング競争が繰り広げられている。
規制強化へ動く厚労省
こうした状況を受け、厚生労働省は2026年6月16日、適正使用の監視強化方針を発表。自由診療市場への規制が強まる可能性がある。SNSで「魔法の薬」と拡散される一方、不適切処方やフリマアプリでの不正転売が発覚し、社会的問題に発展していた。
臨床試験が示す驚異的な効果
マンジャロの有効性は、大規模な第III相臨床試験群(SURPASS試験、SURMOUNT試験)で検証されている。特にSURMOUNT-5試験では、糖尿病のない肥満成人751人を対象に、チルゼパチドと従来薬セマグルチド(ウゴービ)を72週間比較。体重平均減少率はセマグルチド群の-13.7%に対し、チルゼパチド群は-20.2%(約22.8kg減)と大きな差をつけた。ウエスト周囲径の平均減少率はチルゼパチド群で-18.4cm、セマグルチド群で-13.0cm。さらに「体重25%以上の減量」を達成した割合は、セマグルチド群の16.1%に対し、チルゼパチド群は31.6%(約3人に1人)に達した。これらの結果は医学誌『New England Journal of Medicine』2025年5月号に掲載された。
リバウンドと副作用の現実
しかし、山﨑氏は「あくまで生活習慣指導を並行した結果」と強調。薬をやめると多くの患者がリバウンドを経験し、体重が元に戻るだけでなく、それ以上に増加するケースも報告されている。副作用として下痢や嘔吐のほか、「特有の口臭」が現れることもある。かつて「意志の弱さや自己責任」と見なされがちだった肥満は、今や医学的治療対象へと認識が変わったが、薬剤への過度な依存は新たな問題を生んでいる。



