教育・研究目的で大学が所有する原子炉「研究炉」は、かつては関東を含めて6基あったが、現在運転可能なのは近畿大と京都大が持つ計2基のみだ。国は昨年、「原子力を最大限活用する」との方針に転換し、改めて人材育成の場として研究炉を利用する動きが進んでいる。
近大の研究炉で運転実習
7月上旬、大阪府東大阪市の近大原子力研究所で、研究炉「UTR-KINKI」を使った運転実習が行われた。北海道大や名古屋大、福井大で原子力工学などを学ぶ大学院生9人が参加。線量計を身に付け、緊張した面持ちで運転制御室に入った。
窓ガラス越しに見えるのは、黄色い円柱状の研究炉(直径約4メートル、高さ約2メートル)。引率した教員の監督の下、学生たちは「原子炉、起動します」と声を上げ、制御盤を操作した。
通常は、炉心にあるウラン燃料に、核分裂を抑える「制御棒」が挿入されているが、制御棒を引き抜く操作を行うと、核分裂が始まる。実習では、炉心で発生した中性子を測定することで運転状況を確かめていた。
副所長の若林源一郎教授は「発電するためのタービンや蒸気の配管はないが、原子炉本体としての基本的な仕組みは原発と同じ」と説明。参加した名古屋大の大橋諒之介さん(22)は「原子炉を実際に運転することで、これまで机上で学んできた原子力の知識がどう役立つのか実感でき、学ぶ意義を再確認できた」と語った。
原発の30億分の1の熱出力
研究炉で発生する熱エネルギーは少ない。近大研究炉の熱出力はわずか1ワットと、一般的な原発の30億分の1だ。豆電球を点灯させることも難しい。そのため原発に欠かせない冷却装置は不要で、トラブルが起きても燃料が溶け落ちるリスクはなく、安全性は高い。
もう1基の研究炉は、京大複合原子力科学研究所(大阪府熊取町)の「KUCA」(熱出力100ワット)。燃料交換のために5年前から運転を停止中だが、今年12月に再稼働する予定だ。それまでは近大の研究炉が実習を希望する全国の学生を一手に受け入れ、年間150人程度が利用しているという。
国が方針転換
近大に研究炉ができたのは1961年。大学が所有する国内初の原子炉だった。日本の原子力利用の黎明期にあたり、2基あった京大を含め、東京大や立教大など計5校で6基の研究炉が整備された。
文部科学省によると、全国の大学の原子力関連学科・専攻への入学者は90年代初め、700人近くに上り、各大学の研究炉は原発を持つ電力会社などに就職する人材育成を担ってきた。
しかし近年は老朽化などを理由に廃炉が決まり、残りは近大と京大の1基ずつに。2011年の東京電力福島第一原発事故を受け、原子力関連学科・専攻に入学する学生も170~180人程度に減少した。
原子力を体系的に学ぶ機会を確保しようと、専門の教員が所属する大学や原子力関連企業などでつくる産学連携組織「未来社会に向けた先進的原子力教育コンソーシアム」が21年に結成された。
近大や京大など78機関が参加し、それぞれが強みを持つ研究分野ごとに学生を一定期間受け入れて、講義や実習を行う。
福島第一原発事故以降、政府は「できる限り原子力に依存しない」との方針を続けてきたが、25年2月、「最大限活用する」と転換。今年6月には、50年代までに最大14基の原発を建て替える考えも示した。
京大複合原子力科学研究所長の黒崎健教授は「役割分担しながらオールジャパンで原子力の人材育成を継続していく」と話した。
研究炉の多様な活用
研究炉は学生の教育だけでなく、様々な分野の研究にも活用されている。
今年4月に運転を終了した京大の研究炉「KUR」は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の探査機「はやぶさ」が小惑星「イトカワ」から2010年に持ち帰った微粒子の元素組成を分析。核分裂で発生した中性子を使って、ナトリウムやクロムなど8元素の含有量を特定した。
近大の研究炉は、放射線測定器の開発に生かされている。中性子の照射量を細かく調整できるため、試作した測定器が正常に動作するかどうかの確認に使われているという。
中性子を動植物に照射して放射線の影響を調べる研究も行われており、京大複合原子力科学研究所の堀順一教授は「研究炉が活用できる研究領域は非常に幅広い」と話す。



