松重豊、考察文化に私見「窮屈な箱じゃない」 長谷川あかりと表現の今を語る
松重豊、考察文化に私見「窮屈な箱じゃない」 長谷川あかりと対談

俳優の松重豊が企画プロデュース・脚本・監督を手掛けるドラマ『おいしいのつくりかた』が、10月3日よりPrime Videoで独占配信される。長年『孤独のグルメ』で“食べる男”として数々のグルメと向き合ってきた松重が、“つくる”側の視点に立って、『孤独』スタッフと届ける、家族と料理の絆を描いた“グルメヒューマンドラマ”だ。オリコンニュースでは、松重と料理家・長谷川あかりとの異“食”対談を実現。作品に関するエピソードから、それぞれの分野での表現についてなど、深い話が飛び出した。

日本の制作現場は「“幕末”のような環境」

あるトラブルによって名門レストランを解雇され、人と距離をとり、心を閉ざしてしまった腕利きシェフ・水橋英二(北村有起哉)。彼が料理人として流れ着いたのは、とある老人ホームだった。一方、レシピ動画配信会社で働くディレクターの大沢加奈(のん)は、祖父・真路(中原丈雄)の死と、長年愛された洋食店「キッチン大沢」の閉店を突然知らされ、深い悲しみに暮れていた。一人残された加奈の祖母・智子(加賀まりこ)も、慣れ親しんだ家から老人ホームに入所したものの生きる気力を失い、食事すら楽しめない失意の日々を過ごしていた。

そんな智子は水橋の料理に出会い、その美味しさに感動し、次第に笑顔を取り戻していく。さらに、水橋の作るポークソテーの味が「キッチン大沢」の看板メニューとまったく同じ味であることに驚く。すぐさま加奈に連絡して味を確かめてもらうと、加奈も祖父の味と同じだと感動する。不思議に思った加奈が調べたところ、水橋が祖父と同じ名門レストラン出身であることが判明する。祖父の味と店を守りたい加奈と智子は、トラブル以降心を閉ざしたままの水橋に、ある提案を持ちかける。

今作では、松重が企画・プロデュース、共同脚本、そして監督もすべて担当している。そのきっかけについて、松重は「本当に長いこと、役者として携わってきたんですけども、(長谷川が)子役をやられていた頃の時代のドラマの環境と、今では激変していると思うんです。単純に視聴率で換算されない、誰にどういうふうに見せるのかということを、既存のテレビ局や映画会社も迷走しています。そこにPrime VideoやNetflixなど映像配信の企業が入ってきて、ある意味“幕末”のような環境になっている部分があるんじゃないかなと」と語る。

「『外国けしからん!』と言った攘夷派か、『外国と一緒にやっていくんだ』と思っている人か…みたいな、そういう過渡期にきているなと。あとは、アジアに対しても、今まではアジアの中で日本はトップランナーだというイメージを持っている方、まだたくさんいらっしゃるかもしれないですが、(映像エンタテインメント業界において)やっぱり置いてかれているという危機感は、僕も何度も向こう(韓国など)にお邪魔して、やはり感じます」と続けた。

その上で「若い人に見てもらうことに焦点を絞った作品をとにかく量産しなければと(日本の制作陣が)思っている風潮がまだあると思うんです。でもそれだけではなく、もっと大人も楽しめる、大人が『質がいいね』って言って楽しめる作品もやっぱり作っていかなきゃいけないなと。若い子たちがインスタ映えするような料理だけを見せていけばいい…という訳ではないじゃないですか?本質的に『よく、この味にたどり着いたね』っていう、やっぱりそういう料理をレシピとして残していく…ということと同じようなことじゃないかなと思っています」と持論を展開。

「そういうことをやるためには、全体を見渡していかなきゃいけないなと感じたので、(作品の)企画書を書いて、シノプシス(あらすじ・要約)を書いて、脚本を立ち上げて、座組を整えて、監督をやって、仕上げて納品するところまで一貫して見ていった方がいいだろうなっていうことですね。ご自身で作られたレシピを自分で作ってみて、人に食べてもらうっていう、もう単純にそれと同じことだと思うんです」と語った。

長谷川は「とてもよくわかります。あまり言い方が良くないかもしれないですが、深く考えずに、とりあえずおいしそうに見えるものを…という風にみんながなっていくと、みんな同じ味になっていくなと。私(『おいしいのつくりかた』のフードスタイリストを務める)飯島奈美さんの大ファンなのですが、やっぱり飯島さんには飯島さんの味があると思います。作っている人がどういう意図で、どういう思いで、どういう人に届けたいかみたいなものが重要なのであって、とにかくバズりたいみたいなものが、各ジャンルで増え続けてしまうのは健康的ではないと感じます」と共感した。

加賀まりこの“表現力”「貴重な旨味が出る」

老人ホームでの食の変化については、加賀の表情だけで、いろんなものが伝わってきたという。松重は「加賀さんが『おいしい』という表情をしてくれるだけで、ご飯何杯もいけるぐらい、貴重な旨味が出るんです。見映えを良くするために、特別な色味をつけるとか、味付けを科学的なものにするとかではなく、熟成された味わいを映像の中で楽しんでいただく。ポークソテーの映像しかりですけども、俳優さんの演技も、やっぱり鮮度と熟成というものを一番大事に撮ることが必要だなと思います」と語った。

北村演じる水橋については「本当に不器用な人で、どこかで家族をないがしろにしてしまった部分があって、自分の中で深い傷を持っている。そういう人にとっても、どこか救いがないといけないのかなというのは描く上で意識していました。今って、再生のチャンスが与えられないで終わるじゃないですか」と述べた。

長谷川は、自身がレシピを通して伝えたメッセージがどのように受け止められるかについて「レシピは、最終的な納品物が文章になることがほとんどです。私がこの姿・形で、せっかく良かれと思って作った料理が、これまで家庭料理が背負ってきた男女の差みたいなものに差し障ることがある。『これ作ったら夫が喜んだから、すごくうれしかった』みたいなことを、私が無邪気に書くと、やっぱりまだ女性が料理を作ることを強いているみたいな見え方になりかねないときがあって」と語る。

松重が「あぁ…難しい」と応じると、長谷川は「だけど、おいしいものを共有する喜びって、消えたわけじゃないですし、すばらしいことなのですが、言い方など気をつけないと、誰かを苦しめてしまうという空気も無視はできない。個々人の文脈や感情の話を、誰かから社会的なものにまで押し付けられるいわれもないので、そこを切り離して考える時に、やっぱり“物語”はいいなと思いました」と語った。

「窮屈なところに押し込める箱じゃない」

松重は考察文化について「(正解の)“考察”ということではないんです。だから、みんながそれぞれに思ってくれればいいので、思索してくれたらということです。(正解の)考察というものを、SNSとかで誰かに投げかける必要はなくて、そこで思索して留めてもらうことが僕らの目的なので。どっちが正しいとか、決して明言していないし、思ってもいないので、何かを感じていただければ、ということだけなんですよね。そこがちょっと難しい時代になっているのかもしれません」と私見を述べた。

長谷川は「おっしゃる通りで、私も今回のドラマを見させていただいて、逆に新しさを感じたといいますか。今は、正解を当てようみたいな空気がなんとなく世間的にある中、この作品はみんなで、それぞれに生まれた感情を自分で熟成させていこう…みたいな空気をすごく感じました。私もついついいろんなことを考えすぎてしまうんですけど、それは別に個別の感情で良いんだなということを、改めて後押ししてもらった気持ちになりました」と語った。

松重は「そう思って見ていただいてありがたいです。僕らがやっているものは、何かこうじゃなきゃとか、こう見るべきだとか、そんな窮屈なところに押し込める箱じゃないと思うんですよ。僕の時代から見ると、今はちょっと窮屈に見えるので、そこを解放した方がいいなと思っています。今回のドラマに関しては、連作として、作品群としてあったらいいなと思っているので、ぜひいろいろな方からそういったお声をいただけるとうれしいです」と今後の展望を語った。

長谷川が「『おいしいのつくりかた』で次を撮るとしたら、どういう料理にしようと決めていらっしゃいますか?」と質問すると、松重は「いろいろあるんですよ。『孤独のグルメ』でも、実はちゃんと正面から取り上げたことのないものに「寿司」があるんです。幼少期に仲良かった子の家が寿司屋で、よく寿司を食べに行っていたのですが、そこのご家族が“夜逃げ”をされたんですね。その経験がトラウマになっている部分がありまして、いまだに寿司屋というものが、僕にとってハードルが高いものになっているんです。「夜逃げの寿司屋」というのは、今の時代にどうやって表現できるかなということとか、いろいろと考えている部分はあります」と明かした。

「とにかく僕もただの食いしん坊なので、何を食べても美味しいと思えるタイプの人間なんです。ただ、基本的にあんまり高価なものはちょっと苦手なので、一般的に昼飯で言ったら1500円ぐらいまでで食べられるもの。その辺の線引きはきっちりあるので、みなさんがご覧になって『これ食べたい』と思えるものを題材にした作品群にしていきたいです」と語った。

『おいしいのつくりかた』は10月3日よりPrime Videoにて独占配信。長谷川が出演する『たべるししゃべるし』はTVer、U-NEXTなどで見逃し配信中。