「踊る貴婦人」と名付けられたデザート、元伯爵が絶賛 スモーキングルーム第66回
「踊る貴婦人」と名付けられたデザート、元伯爵が絶賛 スモーキングルーム第66回

元伯爵は一口食べて目を瞑り、もう一口食べて頷いた。

「しっかりと甘いのに食感が優しい。かと思えば、様々なフルーツが色とりどりの変化を生む。この赤いソースの酸味が刺激的で、またいいね。この花のような香りはなんだろう」

「蜂蜜です。この国に咲く白い花の香りがよくでているものを選びました」

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「ああ」と元伯爵は白い髭を震わせた。

亡き妻との思い出

「亡くなった妻に初めてダンスを申し込んだ時のことを思いだしたよ。ここの屋敷の舞踏会でだった。可憐に翻るスカートから美しいものが、花のような香りが、舞い散るようで夢みたいだった。舞踏会の後のスモーキングルームでもね、彼女の評判で持ちきりで、葉巻片手に若い紳士たちが彼女の話ばかりしていた。私ははらはらして、すぐさま結婚を申し込むことになったよ」

「では」と針金は恭しく言った。「『踊る貴婦人』と名付けましょうか」

「素晴らしい」と元伯爵は目を細めた。「時代は変わってしまったが、このホテルは美しい記憶をずっと残しておくれね」

料理長の安堵

「うちには不沈の料理人がおりますから」

針金が眼鏡のつるに手を当てると、「それは頼もしい」と元伯爵は笑った。料理長は終始、逞しい胸を張っていたが、厨房に引っ込むと深い安堵の息を吐いた。

「なあ、あんた昨夜の話を聞いていたんじゃないか。これは嘘じゃないよな」

針金は作業台に突っ伏した料理長を見下ろした。

「なんのことかわかりませんが、一つ言えるのは、ここはお客様に夢を差し上げる場所でもあるということです。お客様は満足されておりました。御礼を申し上げます」

針金は深々と礼をして、すっと踵を返すと、レストランへ戻っていった。騒がしかった厨房が一瞬静まり、すぐに蜂の巣を突いたようになった。料理長と銀のワゴンを取り囲み、「艦長、味見していいですか?」「おい、順番だ!」「あたしが先だよ!」と口々に喚きだす。「うるさい! まだ、たくさんある!」と料理長の怒号が響いた。

名物デザートとして

「踊る貴婦人」は料理長が自国へ戻り、針金が去った後も、ホテルの名物デザートとして残り続けた。

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