精神疾患を抱えるスタッフ8割の出版社に密着『干潟になりたい』5日放送
精神疾患抱えるスタッフ8割の出版社に密着 5日放送

「誰かの役に立ちたい」――5日にフジテレビで放送される第35回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『干潟になりたい』(25:45~ ※関東ローカル、鹿児島テレビ制作)では、スタッフの8割が心の病を抱えながら働く鹿児島市の出版社に4年間密着。統合失調症を発症し、夢だった研究者の道を絶たれた編集者・岩井雄次さん(55)らが、精神疾患と共に生き、働く姿を追う。

世界でも珍しい出版社

番組が見つめるのは、鹿児島市のラグーナ出版。精神疾患を抱える当事者たちが、本の企画から制作、販売までを担う、世界でも珍しい出版社だという。

中でも多くの人の心をつかんできたのが、2006年に創刊された雑誌『シナプスの笑い』。年3回発行され、これまで約2万部を売り上げてきた。誌面の中心を占めるのは、全国の精神疾患を抱える人々から寄せられた投稿作品。発症によって社会からこぼれ落ちた経験や、傷ついた過去、胸の内に抱える思いがつづられている。

夢を絶たれ、約20年

編集部で『シナプスの笑い』を担当する岩井さんも、精神疾患を抱える一人だ。24歳で夢だった研究者になったものの、統合失調症を発症。夢を絶たれ、定職につけないまま約20年を過ごした末、ラグーナ出版にたどり着いた。入社から9年、時折心のバランスを崩しながらも、編集の仕事を続けている。

そんな岩井さんが向き合っていたのが、“精神疾患になった自分”について書くコラムだった。書こうとしても筆が進まず、思い悩む日々が続く。

転機となったのは、精神医療の先進国とされるイタリアから専門家たちが訪れたことだった。「日本も変われる。自分たちがやっていることを信じてください」という言葉を受け、岩井さんは「誰かの役に立ちたい」と、再びコラムを書き始める。

制作のきっかけと込めた思い

番組を手がけた鹿児島テレビの前田慎伍ディレクターが、このテーマを取材するきっかけとなったのは、身近な人々が心の病によって仕事を離れていく姿だった。叔父がうつになり会社を退職し、鹿児島テレビでも後輩が一人、また一人と心の病を理由に退職していったという。前田Dは取材を進め、日本で精神疾患を抱える人が約600万人に上る一方、病状が周囲から理解されにくく、社会復帰が難しい現状に目を向けた。

一方、海外では、全ての精神科病院を閉鎖したイタリアをはじめ、病床数を減らし、地域の中で治療する「地域精神医療」が浸透しつつあるという。

前田Dは「精神疾患を抱えた人たちが、本の企画から販売まで全てを担う、世界でも珍しい鹿児島の出版社を通して、日本の精神医療や寛容な社会のありさまを考えたいと思い制作しました」と番組に込めた思いを語っている。