小田和正がホストを務め、「アーティスト同士がお互いを認め、称え合う」というコンセプトのもと、20年以上にわたってクリスマスに放送されていたTBSの音楽番組『クリスマスの約束』。その中から2008年、2009年、2010年に放送された3作品が、未放送曲を追加収録し、Blu-rayとして26日に発売された。
20年以上続いた『クリスマスの約束』
『クリスマスの約束』は、2001年、小田がTBSから「既存の音楽番組とは違うものを作れないか」と打診され、誕生した番組。オファーを受けた小田は、「アーティスト同士がお互いを認め、称え合う」という思いを実現すべく、歌と真摯に向き合いながら、毎年趣向を凝らした番組を作り上げていった。
小田の代表曲やオフコース時代の名曲も歌われるが、単なる小田のライブ特番でもなく、その年の話題のアーティストと共演する番組でもない、まさに「奇跡の音楽コラボレーション・ライブ特番」というべきものだった。2001年に第1回が放送されると、音楽ファンの間で評判となり、翌年以降も継続。途中で数回の休止年を挟みつつ、2024年12月24日に放送された第20回の『クリスマスの約束2024』をもって番組は終了した。今回は、その第8回、9回、10回にあたる3年間の番組がBlu-rayとしてリリースされた(なお、2007年放送分まではすでにBlu-ray化されている)。
2008年:ツアーと“ご当地紀行”を総まとめ
『クリスマスの約束2008』(第8回)が放送された2008年は、小田が3年ぶりに全国ツアー『明治安田生命Presents KAZUMASA ODA TOUR 2008 “今日も どこかで” 』を開催した年であり、小田にとって初めてとなったドームツアー『きっとまたいつか♪今日も どこかでFINAL♪』も行われた。それらのツアーの合間を縫って収録され、番組内でもツアーで歌われた曲を中心に構成されている。また、ツアーで好評だった“ご当地紀行”のダイジェストムービーや、ツアー中のこぼれ話なども番組内で語られており、2008年の小田の活動を総まとめした内容となっている。
“ご当地紀行”とは、小田がツアーで訪れた街を散策する名物企画。いわば“街ぶら”的な映像だ。番組内でも小田は、「13年前、ソロになってから3度目のツアーがスタートした直後、三重県四日市を訪れた時のことです。自分は確かに君たちの住んでいる街に来たんだ、という気持ちをもっと強く共有できないかと考えました。そして思い立って、地元の人たちにはおなじみの場所へぶらぶら出かけて撮影し、それを本番のステージで映写してみたんです。これがお客さんにもスタッフにも大ウケでした。この日から僕のツアーで圧倒的に重要な位置を占めるようになりました。」と、小田自身が“ご当地紀行”の誕生秘話を語っている。
この“ご当地紀行”で映し出される迷シーン(!?)の数々や、プライベート感あふれる小田の自然体な会話など、特に彼のアーティストとしての側面しか知らない人にとっては、非常に面白い内容といえるだろう。18年前の全国各地の街並みや景色、映像の中で笑顔を見せる多くの人々、さらには人通りの少なくなってしまった地方都市の実情までもが記録されており、今となっては、これらも貴重な記録だ。2008年といえば、日本国内で初めてiPhoneが発売された年であり(米国での発売は2007年)、YouTubeでさえも、まだ日本語版サービスが開始されてわずか2年目を迎えた時代。その頃の日常を切り取ったようなシーンを2026年に見ると、どこかタイムスリップしたような不思議な感覚となる。
映像からは18年という時の流れを感じる一方、小田の歌声や、彼が選び新たなアレンジを施した楽曲には古さを感じさせない。むしろ今聴くからこその新鮮さがあり、時代を超えて愛される楽曲と、小田のアーティストとしての普遍性を改めて感じさせる内容だ。
もうひとつの見どころは、佐橋佳幸(音楽プロデューサー/ギタリスト)と松たか子(歌手/俳優)が、当時、夫婦として初めてゲスト出演したシーン。小田が楽曲提供した松たか子の「おやすみ」を3人で演奏・歌唱しているほか、小田でなければ2人から聞き出せないようなトークも必見だ(余談だが、小田の代表曲「ラブ・ストーリーは突然に」の冒頭に入っている印象的なギターは、佐橋のプレイによるものだ)。そういった展開がありつつ、番組のラストを締めくくる「さよならは 言わない」での幻想的な映像演出も、ぜひ注目してもらいたい。
2009年:33人で挑んだ「22'50"」“伝説の一夜”
『クリスマスの約束2009』(第9回)は、ファンの間でも、また番組制作スタッフの間でも“伝説の放送回”として語り継がれる名作だ。ゲストとして、AI、Aqua Timez、いきものがかり、キマグレン、Crystal Kay、財津和夫、佐藤竹善、清水翔太、JUJU、スキマスイッチ、鈴木雅之、スターダスト☆レビュー、中村 中、夏川りみ、一青窈、平原綾香、広瀬香美、藤井フミヤ、松たか子、山本潤子(以上、五十音順)と、当時最多となる20組33人のアーティストが集結。この番組のためだけに制作された22分50秒に及ぶ大メドレー曲「22'50"」を全員で歌ったハイライトは、テレビ音楽番組としても、J-POP史においても、“奇跡のライブ”と呼びたくなる光景だ。
2009年の放送は、小田の発案による企画そのものがスペシャルだったこともあり、番組自体の構成も、初期段階での打ち合わせから、ライブ(収録)当日に至るまでの裏側を追った内容となっている。これまでも、本番に至る過程を追ったドキュメンタリー映像は『クリスマスの約束』のひとつの特徴となっているが、2009年は、より壮大な音楽ドキュメンタリーと言える内容に仕上がっている。
そのドキュメンタリーの内容は、単純に成功へのストーリーが描かれているのではない。もしかすると企画そのものが失敗に終わるのではないかという不安や、キャリアやジャンルを超えて集まったミュージシャン同士が、「歌うことの意味」や「音楽を生み出すことの難しさ」に真剣に向き合い、生みの苦しみに直面する姿までもが赤裸々に映し出される。
だからこそ、次第に参加者の呼吸が合っていく様子や、メドレーの曲タイトルが小田の口から全員に伝えられるシーン、そして迎えた本番や、第一線で活躍するアーティストたちが歌い終わった直後に見せた達成感と充実感に満ちた笑顔、互いを称えながら肩を抱き合うシーンには、ぐっと心をつかまれる。個々のアーティストの歌声の素晴らしさや、それぞれの個性が重なり合うことで生まれる新たな音楽の響きに加え、実力派アーティストたちが、苦悩しながら音楽に打ち込んでいく姿も見逃せない。
このメドレー曲がどのように作り上げられ、本番でどのようなステージへと結実したのか。今改めて、ぜひ多くの音楽ファンに目撃してほしい。加えて、ライブの最後に自然発生的に出演者と観客全員で合唱した「たしかなこと」や、番組のエンディングで後日談として紹介される、小田が33人のゲスト・アーティストたちに送ったメッセージもお見逃しなく。
2010年:横浜で生まれた温かなセッション
2001年からスタートした同番組の記念すべき第10回『クリスマスの約束2010』(2010年)は、小田の出身地・横浜にある横浜赤レンガ倉庫1号館内ホールで収録された。番組内で小田自身も語っているが、10周年だからといって大々的にイベントを行うのではなく、小田の地元である横浜で「新しい音楽仲間たちとプライベート・ライブを楽しむ」がテーマとなっている。そのため、ライブハウスのような雰囲気の中、観客と距離感が近く、しかも出演者同士の絆までしっかりと伝わってくる温かな空間で番組が作り上げられている点が特徴的だ。
その“音楽仲間たち”は、キヨサク(MONGOL800)、清水翔太、JUJU、大橋卓弥(スキマスイッチ)、常田真太郎(スキマスイッチ)、玉城千春(Kiroro)、根本要(スターダスト☆レビュー)、松たか子、山本潤子の9名(以上、五十音順)。前年の感動的なメドレー曲「22'50"」の流れを受けつつも、10回目という節目に、音楽そのものの魅力に立ち返ることを小田は選択。彼をはじめとする“小委員会(昨年の企画を実現するために初期段階から集まった数人のアーティスト)”のメンバーが、膨大な楽曲の中から魅力的な歌を丁寧に選んでいき、自身が影響を受けた曲や、大切な思い出となっている曲、さらに自身の代表曲や小田の楽曲を歌い、演奏するといった内容になっている。
ユニークなのは、それらの歌を披露するスタイルだ。会場中央のステージは観客が取り囲むように設置されて、しかも一堂に会した出演者たちがお互いに顔を合わせられるような形で座っているため、歌う際も、トークを繰り広げる際も実に自然であると同時に、客席との境界線もなく、全員で同じ時間を楽しんでいるという空気感がとても印象的だ。
そうした中で、小田がゲストを一人ずつ紹介し、サポートMC役の根本とともに、小田とゲストとの出会いや、選曲にまつわるエピソードが披露されていくのも、この回ならではの面白さだ。いわゆるテレビの司会者的なトークをせず、少々ぶっきらぼうでいて、言葉の端々に照れやユーモアをにじませながらも印象的な言葉を発する小田と、巧みなトークで観客や視聴者の心を捉える根本との掛け合いも楽しい。
だからこそ、小田がふと漏らす言葉、たとえば「(アレンジする際は)オリジナルに負けたくないっていう気持ちがある。やっぱり、オリジナルより劣ったものを本人に歌わせるというのは甚だ失礼だっていう(気持ちがある)」など、淡々と語りながらも音楽に対する強いこだわりが伝わってくる瞬間に幾度となく出会うことができる。こうした小田のトークが聞けるのも、『クリスマスの約束』という特別な番組だからこその醍醐味だ。
こうして各曲に対するエピソードが披露された後、小田が手がけたこの日だけのスペシャルなアレンジで数々の名曲が歌われていく。番組がなければ出会わなかったかもしれない小田と9人のアーティスト、そして観客までもが、音楽を通して一つにつながっていく。そしてライブの終盤、冒頭で歌った「Today」(1964年に発表されたザ・ニュー・クリスティ・ミンストレルズの楽曲で、アマチュア時代の小田がよく聴き、ハモっていたといわれる名曲)を再び全員で歌うのだが、その際に小田が語った“今”を生きることの大切さというメッセージ性も、16年の時を経た2026年の今、より一層強く心に響いてくる。その詳細を含め、ぜひ『クリスマスの約束2010』の歌とトークを堪能してみてほしい。
商品情報
『クリスマスの約束2008』は品番BVXL-161、価格6,600円(税込)。ゲストは佐橋佳幸、松たか子。収録曲は「きよしこの夜」(未放送)、「こころ」、「愛を止めないで」、「たしかなこと」、「さよなら」、「生まれ来る子供たちのために」、「言葉にできない」、「NEXTのテーマ -僕等がいた-」(未放送)、「Yes-No」(未放送)、「ラブ・ストーリーは突然に」、「もう歌は作れない」、「夏の終り」、「眠れぬ夜」、「こころは気紛れ」(未放送)、「風に吹かれて」(未放送)、「やさしさにさようなら」、「between the word & the heart ー言葉と心ー」、「恋は大騒ぎ」(未放送)、「愛の唄」(未放送)、「おやすみ」、「今日も どこかで」、「東京の空」、「さよならは 言わない」。
『クリスマスの約束2009』は品番BVXL-162、価格6,600円(税込)。ゲストはAI、Aqua Timez、いきものがかり、キマグレン、Crystal Kay、財津和夫、佐藤竹善、清水翔太、JUJU、スキマスイッチ、鈴木雅之、スターダスト☆レビュー、中村 中、夏川りみ、一青窈、平原綾香、広瀬香美、藤井フミヤ、松たか子、山本潤子。収録曲は「風のように」、「16号を下って」(未放送)、「ダイジョウブ」(未放送)、「こころ」(未放送)、「きよしこの夜」、「クリスマス・イブ」、「22'50"」(この日のこと、TRUE LOVE、今夜だけきっと、ロマンスの神様、明日がくるなら、明日、春が来たら、友達の詩、La La La、恋におちたら、Story、夢で逢えたら、ハナミズキ、翼をください、HOME、YES-YES-YES、LIFE、虹、全力少年、Jupiter、涙そうそう、青春の影、帰りたくなったよ)、「たしかなこと」。
『クリスマスの約束2010』は品番BVXL-163、価格6,600円(税込)。ゲストはキヨサク(MONGOL800)、清水翔太、JUJU、大橋卓弥(スキマスイッチ)、常田真太郎(スキマスイッチ)、玉城千春(Kiroro)、根本要(スターダスト☆レビュー)、松たか子、山本潤子。収録曲は「Today」、「Hello, Again 〜昔からある場所〜」、「空も飛べるはず」、「冷たい雨」、「ラブ・ストーリーは突然に」、「美しすぎて」、「未来へ〜長い間」、「君が好き」、「500マイル」、「思い出はうたになった」、「惑星タイマー」、「小さな恋のうた」、「Today」、「my home town」。



