臨床心理学者の東畑開人氏は、著書『ミドル・エイジ・ビギンズ』の中で、中年期を「深い森」に例え、その孤独な性質を解説している。中年とは、見通しが悪く、一度彷徨い込むと自分の位置や方向性を見失いがちな時期だという。
中年期の秘密と孤独
中年期の心理学の代表的研究者レビンソンは、成人の人生の具体的な性格は、現代社会において最もよく守られた秘密の一つだと指摘する。一般に中年の人は、同輩や若い同僚、後継者たちと中年の生活の経過や意味を語り合うことが難しいと感じる。中年という話題は、触れてはならないものとされてきたのだ。
東畑氏は、ミドル・エイジの物語は聞いてもらえず、孤独なものだと述べる。しかし、それは中年の人生がそれだけ個人的になっている証拠でもある。同窓会に行くと、同じ教室で同じ制服を着て同じように居眠りをしていたはずのクラスメートたちが、驚くほど異なる生き方をしていることに気づく。無数の偶然が積み重なって到達する中年期には、各自があまりに個性的な存在となり、互いに理解し合えず、関心すら持ちにくくなる。だからこそ、同窓会では現在の話より昔話をする方が楽しいのだ。
個人的な危機としての中年期
中年期が深い森のようであるのは、それが極めて個人的な危機の時期だからだ。これには二つの含みがある。第一に、ミドル・エイジ・クライシスは個人的な危機であるため、その入り口も出口も歩き方も一律ではなく、それぞれが独自の答えを求めて森の中を彷徨わざるを得ない。第二に、この危機は個人的であるがゆえに、周囲の同年代と経験や知恵を共有できず、誰もが未知の森で迷子になる。
東畑氏は、第一の点は中年期の避けられない本質として受け入れる必要があるが、第二の点には改善の余地があると指摘する。もしミドル・エイジ・クライシスの経験談を聞き回ることができれば、深い森のおおよその地図を事前に準備できるかもしれないという。
中年の疚しさと秘密
中年期の孤独は、周囲と共有できない「疚しさ」にも起因する。誰もが抱える不安や後悔、未達成の夢といった感情は、社会の中で語りにくいタブーとされている。同窓会での表面的な会話の裏には、こうした深い悩みが隠れているのだ。東畑氏は、中年の危機を乗り越えるためには、まずその存在を認め、適切な場で語ることの重要性を説いている。



